内容説明
三十を過ぎても定職につかず、漫然と生きる長井代助には、かつて愛した女性を親友に譲った過去があった。彼女と再会した代助を襲う衝動、それは真実の愛か、理に悖る愛か―。近代人とエゴイズムの問題に切り込んだ『それから』。罪を負った代助の“後日の姿”を冷徹に見つめた『門』。永遠の名作二篇を収める。
著者等紹介
夏目漱石[ナツメソウセキ]
慶応3(1867)年、東京に生れる。帝国大学文科大学英文科卒業。東京高等師範学校、松山中学、第五高等学校の教職を経て、イギリスに留学する。帰国後、第一高等学校、東京帝国大学で教鞭をとるかたわら、『吾輩は猫である』『坊っちゃん』を執筆。明治40(1907)年より朝日新聞社員となる。以後、同新聞に『虞美人草』『三四郎』『それから』『門』を発表、明治43(1910)年、胃潰瘍のため吐血してからは病いと闘いながら『彼岸過迄』『行人』『こころ』『道草』を書いたが、『明暗』を執筆中の大正5(1916)年死去した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
46
エゴイズムが感じられる2作品でした。近代文明が進んでいく中で漱石が見た世間なのでしょう。近代化とエゴイズムの問題は罪なのか。冷静に時代を見つめているところから、現代の私たちが考えなければならない問題といえるでしょう。2023/02/13
たらちゃん
13
天下の帝大を出たあとに興味があって読みました。いずれにせよぐずぐずして何事にも本気ではなく、身をもちくずずことで自分を本気に追い込みたいのか。そんなところが、気持ち悪くも心当たりがある。こんな人と結婚した相手はどうなんだろう。どこかで振り回されることを願っていないかしら。私なら嫌だから近づかない。とはいえ、私は面白く読んだし、当時の人々にはとても新鮮で人気だったのではないかしら。2020/09/17
カーンズ
8
三四郎からの流れ、それから、門の2部。 漱石の近代文明化が進む事の人類のエゴイズムの問題を描いた2作。人間の愛の問題から社会を映す実は相談な作品。この人類のエゴ問題の答えが、まさに今直面している問題たちかも知れません。 ともかく明治後期の生活様式、家族の繋がりが日本人のアイデンティティであるのかな。 『門』の宗助とお米の仲の良い夫婦の関係が漱石によりこの時代に描かれてたのが男尊女卑ではない事が安心できるところでした。 やはり文学の根底は漱石先生でした♪2021/08/27
Arthur.
6
ずるずると肚の内を這っているような気持ち悪さ。エゴイズムに身を焦がすならば、こう覚悟しなくちゃいけない。人間の淵から漏れ出す欲の体液は、掬っても、満たす器がなければ、救われない。2014/11/15
マーブル
5
三四郎の純粋さ、危うさはまったく感じられない。 けれど、進むにつれ主人公の心の奥が見えてくる。 彼にも友人のため涙する事を厭わぬ頃があった。 それが正しいと信じ自然の心を封じ込める頃が。 「それから」数年彼は変わった。 物語の後半、突然に自分の心に従うことを決意する。 これまで敢えて避けてきた現実に向き合うには、あまりにも無計画で、幼くて、無防備。読み進むのがためらわれる。 何やってんだ。うまくいくわけないだろう。 漱石は理屈が勝っている。 でもそこが好きなように思える。2017/02/22