出版社内容情報
東大コンプレックス嵩じて吃音症に陥り帰郷した青年と、心優しき花石の人たち。東北方言と至高のユーモアで読ませるザ・青春小説。
内容説明
東大コンプレックスと都会生活の疲れで強度の吃音症に陥った小松青年は、故郷・花石に帰省する。焼き鳥屋の屋台を守る逞しき母、心優しい娼婦かおり、鉄材泥棒のニセ東大生らとの交わりを通じて、青年はゆっくりとぶざまに、正しく進んでいく。東北一の製鉄所の町を舞台に描かれる、笑いと涙の青春小説。
著者等紹介
井上ひさし[イノウエヒサシ]
昭和9年(1934)、山形県生まれ。上智大学外国語学部フランス語科卒。浅草フランス座文芸部兼進行係などを経て、戯曲「日本人のへそ」、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」などを手がける。47年「手鎖心中」で直木賞受賞、54年「しみじみ日本・乃木大将」「小林一茶」で紀伊國屋演劇賞、翌年読売文学賞戯曲賞を受賞。56年「吉里吉里人」で日本SF大賞、翌年読売文学賞小説賞を受賞。平成11年、菊池寛賞受賞。16年、文化功労者。22年4月9日逝去(享年75)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
60
井上ひさしの半ば自伝的な小説。そして、かつては新日鉄の高炉をシンボルとし、また日本有数の漁港を有して賑わっていた釜石の町への井上のオマージュ。この小説が書かれた1980年は新日鉄釜石ラグビー部の全盛時代(日本選手権7連覇の3年目)なのだが、その一方では重厚長大型産業に影がさしてきた頃でもあった。そして、2011年の大震災では、死者(888名)・行方不明者(153名)を出した釜石市。井上ひさしは、その前年に亡くなっているが、彼が生きていれば再び釜石に、そして東北全土に熱いオマージュを捧げたことだろう。2013/01/25
ふう
21
戦争が終わり、日本が力強く復興し始めた時代。鉄鋼と漁業の町を舞台に、大学生と人々の暮らしを明るくいきいきと描いたすばらしい作品です。東大コンプレックスなどから吃音症になった青年を、過度に心配することもなくゆったりと迎える母。バカにすることなく親切に接する町の人々。かっての日本はこんなに素朴で裏表のない人間関係にあふれていたのだなと感心しました。青年もやがて自分のことより人のことを考えて生きていこうと思うように。損得ではなく、周りの人々のために生きていこうと決意するまでの青年の悩みや迷いに共感しました。2012/11/30
桜もち 太郎
6
東北訛りの文章が読みにくく若干ストレスになってしまった。コンプレックスを抱えた青年の成長記。2017/11/25
bouhito
6
筆者の自伝的小説であり、そういう意味では「新釈・遠野物語」の前日譚としても考えられる。花石は鉄鋼の街・釜石であり、もしかしたら吉里吉里人の構想は、過ぎし日の釜石から浮かんだのかもしれない。主人公の夏夫は、釜石でモラトリアムの日々を過ごすが、「ゆっくりする」ことが、これだけ冒険に満ちて、魅力的だったら、どんなに素敵な大人になれるだろうか!2016/07/06
ろくしたん
4
これ以上読むことはないと思うので、ここで。まず、表紙が気に入らない。次に、鷲のマークへの拘りが、前提を共有できていないのでわかりにくい。(東大コンプレックスとのこと)。井上ひさしらしいといえばらしいが、いまいちピンとこない本。イサムよりよろしくと、何か他の本を切り張りしたような印象で読みごたえは不満。2020/10/02