内容説明
家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。犬を愛する人に贈る感涙作。
著者等紹介
馳星周[ハセセイシュウ]
1965年、北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務、書評家などを経て、96年『不夜城』で小説家デビュー。同作で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。98年『鎮魂歌 不夜城2』で日本推理作家協会賞、99年『漂流街』で大藪春彦賞受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1240
表題作を含む6つの連作短篇集ーというよりは巻末の「少年と犬」に向かって只管に疾走してゆく物語。巻頭の「男と犬」は続く「泥棒と犬」を呼び覚まし、それがまた次の…と連鎖を繰り返しつつ、最後に円環を結ぶという構造。そのいずれの物語も「死」が新たなる生を生み出すという「死と再生」の物語でもある。本書がそうした構造をとるのは、これが馳星周の3.11大震災への鎮魂歌でもあるからだろう。そして、その鎮魂は物語末尾のカタルシスによって浄化が果たされたようである。私たち読者が多聞に寄せる共感と感謝の涙とともに。2022/11/01
starbro
1059
馳 星周は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。愛犬家の著者の犬本、3作目だWAN。釜石(東日本大震災)~熊本(熊本地震)ドッグ・ロード・ノベル、奇跡の物語、感涙作でした🐕🐕🐕 https://books.bunshun.jp/articles/-/55212020/06/13
鉄之助
927
感動もの、とわかっていても、ラスト7ページは涙が止まらなかった。犬の名前「多門」には、深~い意味がありそうだ。仏教の多聞天は、四天王のひとつで「よく聞く所の者」。だから、連作短編集の6人、それぞれの主人公の苦しみに耳をじっと傾け、護ってくれる。各章で登場するときは、いつも「傷つき、くたびれ、飢えている」多門だが、みんなの心を温める。各章、辛い幕切れなのは、そうでもしないと、多門が次の旅に出られないからか? 超愛犬家の馳星周、ならではの良くできた物語だった。面白過ぎて、読む手が止まらずあっという間に読了。2020/12/07
ウッディ
830
震災で飼い主が亡くなり、何かを求めて旅する犬・多聞。その途中で出会った人たちは、利口な多聞と心を通わせ、温かな気持ちになるが・・。男、泥棒、夫婦、娼婦そして老人、犬と出会った人たちはいずれも悲劇的な結末を迎えるが、彼らにとって、犬との出会いが不幸だったのか、それとも不幸の前のささやかな癒しと捉えるのか、自分の中での収まりが悪かった。犬とともに幸せに過ごした過去は、不幸な現実を忘れさせてくれる優しい記憶なのかもしれない。特に、「男と犬」で、多聞を見た認知症の母がほほ笑むシーンは、切なく胸に刻まれた。2021/04/23
bunmei
830
直木賞受賞に相応しい、ハートフルな連作小説。主人公となる犬・多聞が、東北から九州まで放浪する中で、様々な境遇の人々と関わり、その人々の心の隙間を埋めていく。それらの出会いは、全てが偶然でありながら、必然でもあるように…。当然、犬の多聞は、何も語らない。しかし、それぞれのシチュエーションの中で、多聞は確かに、人々を勇気づけ、励まし、寄り添う言葉を語っている。そして、最終章の少年との出会いこそが、多聞の使命だったかのように、それまでのストーリーを回収し、目頭が熱くになるフィナーレへと、読む者をいざないます。 2020/08/14