光線

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  • サイズ B6判/ページ数 217p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784163815503
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0093

出版社内容情報

東日本大震災後に癌が発覚。自身の病気と天災がもたらした不幸が重なりあうとき、作家は何を感じたのか? 心に深く沁み入る八篇

作家の村田喜代子さんは、東日本大震災の数日後に子宮体ガンが発覚。摘出手術を避け、鹿児島市で一か月間、強いX線のピンポイント照射を受けて、3か月後にガンは消滅しました。治療中、放射線宿酔でふらつく体で震災関連のニュース、福島原発の推移をテレビで見るうちに、ある不思議な気持ちが芽生えてきた、とおっしゃいます。
「文學界」でこの一年半の間に発表された連作6編のうち、「光線」「海のサイレン」「原子海岸」「ばあば神」の4編は、この村田さんの内なる震災体験から生まれました。原発からもれる放射線と、自分の下腹部にあてられる放射線が混ざり合うのを感じる、という村田さんならではの感覚、個人と社会の災厄が重なるという稀有な体験が、作品の随所で顔をだし、見事に文学に昇華されています。
「こうして6作の異なる短編の顔を見較べると、これも『地』というものの話だった。人間の生きる所は、すべて『地』によっている」(あとがきより)
本の最後に収められたのは、震災前に書かれた「楽園」。山口県のカルスト台地の地下800メートルに位置する鍾乳洞で行われる〈暗闇体験〉。一人の探検家が文中でこう言ってます。「洞窟に潜ることは、存在とか認識に関わる哲学体験であり、造物主に近づいていく創造的体験である。またその体験をしているとき、自分にとって地上は『楽園』である」。この足の下の場面が永遠に盤石であることを願い、この光あるタイトルの作品をラストにもってきました。
読売新聞、朝日新聞ですでにこの連作については取り上げられ、村田さんの新境地を示す、ターニングポイントとなる作品であることは間違いありません。

内容説明

東日本の大地が鳴動した数日後、ガンの疑いが現われる。日本列島の南端の町で、放射線治療を受ける一ヶ月余のあいだ、震災と原発をめぐる騒動をテレビで繰り返し見つめつづけた。治療を終え、ガンが消えた身体になった著者は、「自分も今一度生きよう」と心に決める―。一国の災厄と自らの身に起きた変動を、見事に文学へと昇華した稀有の連作小説。

著者等紹介

村田喜代子[ムラタキヨコ]
1945年、福岡県八幡(北九州市)生まれ。77年、「水中の声」で九州芸術祭文学賞受賞を機に、執筆活動に入る。87年に「鍋の中」で第97回芥川賞、90年に「白い山」で女流文学賞、97年に「蟹女」で紫式部文学賞、98年に「望潮」で川端康成文学賞、99年に「龍秘御天歌」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年、紫綬褒章受章。10年に「故郷のわが家」で野間文芸賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

そうたそ

33
★★★☆☆ 本書は元々は「地の力」のようなものをテーマとした短編の依頼があったことから書き始められたものであったらしいが、震災という予想外の出来事に合わせて、作者自身に癌が発覚したことから、作中の収録作の半分以上は癌治療及び放射能・放射線治療に関することを描いたものとなっている。作者自身の経験が色濃く反映されているせいか、小説としての味わい深さはそれほど感じられなかった。放射線治療に関する知識は参考になったが、本当に効果的なんだろうか。村田さんに関して言えば、無事治療は成功したようで何より。2015/06/30

なゆ

33
土地の力・地の霊力というようなものについての連作短編集なのだが、連載途中に震災そして原発事故が起こったことで、そこを境に雰囲気がガラッと変わる。ちょうどその頃に村田さん自身が放射線治療を受けられていたそうで、原発の放射線の恐怖と放射線治療の恩恵のはざまでの複雑な心境が浮かび上がる。静かで落ち着いた文章で問いかけられているような気がする。それにしてもスゴイ治療もあるのだなぁと、そっちに気をとられてしまったりもするのだけど。地霊にまつわる話もよかった。「山の人生」の爺捨ての謎は興味深かったし、「楽園」もいい。2014/10/17

yumiha

21
どこかしたたかなお年寄り、というこれまでの村田喜代子作品とはちょっと違って、重苦しい雰囲気の短編集。3.11やそれに重なるような癌の闘病を扱っていたからだらふか?そうでない「関門」「菜の花」「山の人生」「楽園」も、私たちの暮らしの気づいていないだけで途方にくれるような迷宮の入り口がぽっかりあるんだよ、って思わされた。2015/02/22

里季

19
8編の小編で構成されている。著者は3.11の数日後に子宮がんが見つかり、放射線をピンポイントで患部に当てて癌を死滅させる治療法を受ける。福島で拡がる放射能と、わが身を死から救う放射線。著者はこのことに大きな感銘を受けたという。小編の中では、私は「夕暮れの菜の花の真ん中」の夫婦のさりげない愛情と、3.11の東京での混乱を描いた「ばあば神」が印象に残った。「かみほとけがまもってくれなさる」「ごせんぞさまがまもりなさる」「みなみなさまがまもりなさる」余命幾ばくも無いひいばあばの電話の声が力強く耳に残った。2013/08/04

くろすけ

12
原発によって大勢の人が生活のすべてを奪われた一方で、放射線治療によって命を取り戻す人々もいる。がんから回復しても、慶び事があっても、手放しで喜べない思い。闇があって際立つ光。人間性への希望。3.11後のこの国に生きる私たちが共有する心情を、風土に根ざした感覚で表した短編集。言葉にして共有することは、「忘れない」ためであると同時に、共に癒されることにもつながってゆく。直前に読んだ筒井康隆もそうだったけど、今、書かずにはいられない文学者の魂を感じた。2013/07/12

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