出版社内容情報
老婆の「当たり屋」が大勢いるという噂を確かめるべく、玄界灘の小島を訪れたわたしが目にした光景とは──。「望潮」他六篇収録
内容説明
砂浜一面の夥しい数のカニが、チカリ、チカリと海へ向いてハサミを打ち振っていたんです。まるで海恋いの、潮恋いの儀式のようでした。川端康成文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
106
☆5.0 川端康成文学賞受賞作の『望潮』を含む6篇収録。 『望潮』玄海灘に浮かぶ架空の島・蓑島で暮らす老婆たちは、まるで 磯から這い上がってくる蟹みたいに、 ゴロゴロゴロゴロと、 手製の手押し車を押して、 あとからあとから這い出てきて、 自動車に体当たりをしてくる。 ねぇ、ねぇ、 そこから 何が 見えたのよ? ゾッとするよな、人の心の淵が、見えたのよ。2021/04/14
なゆ
52
なんだか不思議な感じの短編集。ちょっとホラーっぽい話がちらほら。なかなか味わいのある老婆がいくつか出てきて、そういう話が好みかな。「白鳥便所」は既読だったが、微妙に違ってる気もするような。「屋根を葺く」では、村田さんって屋根屋が好きなのね~とつくづく実感する。でも強烈に印象的だったのは、「水をくれえ」。こういう事故がほんの少し前にもあったせいだろうか。いや、その状況でその呑気な会話してることの違和感のせいだろうか。その光景を想像すると、コワすぎる。2016/04/20
take0
19
6編を収録。「望潮」は手押車を押してひょろひょろと道路に漂い出てくる、身体が「つ」の字に曲がった老婆達の姿が印象的な作品。「屋根を葺く」は『屋根屋』の原話ともいえる話。「白鳥便所」は昭和三十年代、祖父の代から裕福ながら父親の脱税容疑で一転暗雲立ち込める少女の屋敷に、祖父の代に勤めていたという奇妙な老婆が現れる。『八幡炎炎記』にも出てきた羽毛を浮かべた汲み取り便所が、作品のカラーを決めるモチーフとしてユーモラスに描かれている。一寸奥行きが足りない感はあれど、村田さんらしさを楽しめる一作。2018/12/22
あ げ こ
9
人の生き死にの、凄まじさであるもの。生々しくて、恐ろしくて、愚かしくて、見苦しい。不可解で、当然で、逞しくて、厚かましい。人の生き死にの、凄みとなるもの。汚くて、美しくて、艶かしい。激しくて、強烈で、不気味な。生きる事と死ぬ事の、複雑さ、大変さと言うべきもの。それが自分であったとしても、おかしくはない、と思う。自分がそう言った、人の生き死にから洩れ出る不可思議さのようなもの達と、いつか遭遇したとしても、まるで不思議ではない、と思う。いつか自分も、そう言った不可思議さを目の当たりにする事になるかもしれない。2019/03/22
Муми
8
短編集。水をくれえ。は、世にも奇妙な物語のようで怖くて面白かった。死の瞬間、肉体と意識はいつ分離するのだろうか。自分が既に死んでいるという自覚がない主人公たちが懸命に生きようとする姿は、面白いが、同時にせつなくもあった。2014/11/09