出版社内容情報
築地の旅篭で元士族、板前、飲み屋女将の死体が発見された。死因は青酸カリによる毒殺。新聞社探訪員と元旗本が犯人探しに乗り出す
内容説明
江戸から明治へ―時代の波に翻弄される人々の哀歓。築地の旅籠で女一人男二人の心中と思われる死体が発見された。新聞社の探訪員と犯人探しに乗り出した元旗本の過去も次第に明らかに…。朝日新聞好評連載小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドナルド@灯れ松明の火
19
杉本さん直木賞受賞後の1990年代最後の作品。 信太郎人情始末帖シリーズの前は色々なプロットを試していたんだな。表題作は長編で幕末から明治に変わった世情と侍たちの新たな世過ぎの難しさ新政府のあせりなどが謎解きを通して描かれる。結末に驚かされる。短編2作はややプロットにこだわったのかも。これにて杉本さん作品コンプリートしてしまった。 これから杉本さんの新作が読めないのはつらい。惜しい人をなくした。2017/05/25
星落秋風五丈原
3
武士自体、存在しないのだと物差を抜き取られてしまう。 明治維新で心棒を抜かれてへなへなとなった彼等は、まるでクラゲだ。 クラゲならば、海へ戻ればよい。けれど彼等は人間だ。 食べてゆくため、働かなければならない。だが、今までの経験は邪魔にこそなれ、全く役に立たない。年の若い者、 身分の低かった者達の言う事を聞かなければならない毎日は、 彼等のプライドをいたく傷つける。 消え行く前時代の残映を眺める元武士達は、リストラが頻繁に 行われる現代に、やっとの事で生きている中高年に重なる。2003/01/24