出版社内容情報
生を享けて六十年余、身近に経験したさまざまな死に、深い観察の目を向け、熟成した筆致で文学空間にすくい上げた興趣深い作品集
内容説明
生きてゆくことは、死と出逢い続けることでもある。生にいろんなかたちがあるように、死にもそれぞれのかたちがある。生を享けてこのかた、めぐりあってきたさまざまな死に、鋭い観察の目を向け、人間の生の不条理を円熟した筆致で独自の文学空間へ掬い上げた、豊かで味わい深かい短篇小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モリータ
9
◆1976-88年(作者49-61歳)に発表された短篇10篇を収録。単行本(本書)89年文藝春秋刊、文庫版92年刊。戦中戦後の光景、近親者の死、そして自らの生死を見つめる私小説群。『紅梅』のあと何気なく手に取ったがよい選択だった。久しく前からの積読だがなぜ買ったかも覚えていない。◆「従兄の声はうるんでいたが、私の胸には、悲しみに類した感情は湧いてはいなかった。幼い頃から姉、祖母、両親、そして兄、弟と肉親の死に接してきた私は、肉親以外の人の死に麻痺しているのか、心を激しく動かされることはなくなっている。(続2022/09/24