出版社内容情報
蒸気機関が導入され発達した、もうひとつの李氏朝鮮王朝。あるときは謎の旅人として、またあるときは王の側近として、歴史の要所要所で暗躍した蒸気駆動の男=汽機人〈都老〉の500年間にわたる彷徨を描いた、5篇を収録した異色のスチームパンクアンソロジー
内容説明
1392年、李氏朝鮮王朝を開いた太祖、李成桂。太祖によって蒸気機関が導入され発達したこの世界で、ある時は謎の商人、またある時は王の側近と、歴史の転換点で暗躍した男がいた。その名は都老。都老はひそかに噂されるように、蒸気機関で動く「汽機人」なのか?彼はこの国の敵なのか、味方なのか?その本当の姿を、想いを知る者は―。王とその寵愛を受けた汽機人の愛憎を描く「知申事の蒸気」、ある奴隷とその主人の主従関係が都老に出会ったことで狂っていく「君子の道」など、蒸気機関が発達したもうひとつの李氏朝鮮王朝500年間を舞台に展開する、韓国SF作家5人が競演するスチームパンクアンソロジー!
著者等紹介
イソヨン[イソヨン]
「知申事の蒸気」で2021年韓国SFアワード中短編部門大賞を受賞した
吉良佳奈江[キラカナエ]
1971年生、東京外国語大学日本語学科、朝鮮語学科卒。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sin
47
ミョンソプ-スチームパンクは関係なくただ単に政権争いの様。エジン-厳格な身分制度は儒教の影響か?実のない身分…ただ建て前の社会で、身代わりの活字機(汽機人)は上っ面の支配階層の実情を晒す。イファン-大衆文芸のリユース。ハル-巧妙だが復讐の相手を違えた。ソヨン-儒教と云うインプットに従う汽機人も然り、王と云う幻影に惑わされる姿はいまも北方朝鮮に残る絶対的君主政治の有り様に同じ、地位はその人物の能力を現すものではなく、自覚を促すものでなくてはならない。何れにしてもこの連作の根本を成すものは技術ではなく歴史だ。2024/11/20
星落秋風五丈原
29
スチームパンクがあった場合の朝鮮史がラストに登場。「君子の道」読み応えあり。ホングギョンが機械人に!2023/07/19
本の蟲
14
サブタイ通り、もし朝鮮王朝史に発達した蒸気機関があったらという歴史if。5名の作家が別々の時代や出来事を描いたアンソロジー。国内時代物は下級武士や町人の話が多い印象なのに対して、こちらはもっぱら宮廷内の勢力争いや陰謀譚が多い。蒸気活用の是非で宮廷が揉めたこともあって庶民生活はほぼ変化なし。たまたま本作がそうなのか、これもお国柄か。巻末のif年表も反乱に党派争いにクーデターに処刑が盛り沢山。韓国ドラマ好きなら知っている名前が登場して楽しめただろうが、全体的に暗く凄惨・陰湿なトーンで少々読んでいて気が滅入った2023/07/16
みなみ
11
蒸気機関が発達した設定の朝鮮王朝という設定のSF。別の作家が同じ設定で歴史を紡いでいく。朝鮮王朝の過酷な党派抗争や奴婢の生活が語られたり、最初は普及していた蒸気機関が禁止になったり、朝鮮王朝らしさが随所で感じられる。本家韓国ではない読者側の私からみると、もっと歴史に精通していると歴史改変部分にニヤリと出来たんだろうな。タイトルの「蒸気駆動の男」の長い年月が印象深い。この機械が完成する「君子の道」がいちばん長く、やはり一番印象に残る。2024/06/30
電羊齋
11
蒸気機関が発達し、「汽機人」と呼ばれる蒸気で動くアンドロイドが生まれている朝鮮王朝という設定の歴史改変SFオムニバス。所収作品に共通して登場する謎の男「都老」の存在が面白い。ちなみに「都老」という人物名自体は朝鮮王朝の歴代の記録である『朝鮮王朝実録』に本当に登場しており、検索してみると面白いかも。個人的に特に面白かったのは「知申事の蒸気」で、朱子学を身につけた汽機人が朱子学と現実との間で葛藤する様子が人間以上に人間らしい。そしてその中で汽機人に本来あるはずのない感情が芽生えていく描写が巧み。2023/10/28