出版社内容情報
地球とコロニーである火星のあいだで戦争が起き、終結した。友好のため、火星の少年少女は使節として地球に送られるが、かれらは地球と火星のどちらにもアイデンティティを見いだせず……。「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した著者の美しきSFドラマ
内容説明
22世紀、地球とその開発基地があった火星のあいだで独立戦争が起き、そして火星の独立で終結した。火星暦35年、友好のために、火星の少年少女たちが使節「水星団」として地球に送られる。彼らは地球での5年にわたる華やかで享楽的な日々を経て、厳粛でひそやかな火星へと帰還するが、どちらの星にも馴染めず、アイデンティティを見いだせずにいた。なかでも火星の総督ハンスを祖父に持つ“火星のプリンセス”ロレインは、その出自ゆえに苦悩していた…。ケン・リュウ激賞、短篇「折りたたみ北京」で2016年ヒューゴー賞を受賞した著者が贈る、繊細な感情が美しい筆致で描かれる火星SF長篇。
著者等紹介
〓景芳[ハオジンファン]
1984年中華人民共和国天津市生まれ。清華大学物理学部で天体物理学を専攻し、経済学の博士号を取得。2014年に発表した短篇「折りたたみ北京」がケン・リュウによって英訳され、2016年にヒューゴー賞ノヴェレット部門を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
117
植民地だった国と旧宗主国が独立後も結びつきを保つのは普通だが、宇宙空間で隔てられ政治体制も正反対になった地球と火星では関係も単純ではない。双方の良い部分も悪い部分も知った若き留学生ロレインは、火星へ戻っても何が正しいかわからず苦悩する。そこで対地球関係に絡み総督である祖父ら権力層で政治抗争が発生し、留学生仲間や火星の友人も否応なく巻き込まれる。従来のSFなら戦争や衝突に発展するところを、最後に自分の頭で理性と善意による判断を下す政治とロレインの成長を描き、人への信頼を表明する物語として深い感銘を残すのだ。2022/06/05
チャーリブ
44
二段組で650余ページはさすがに長かった。物語の舞台は、地球から独立した22世紀の火星植民都市。独立戦争の後、友好使節として地球に派遣された若い留学生たちが5年後火星に戻ってくるところから物語が始まる。提督の娘・ロレインも留学生の一人で、主に彼女の目を通して商業主義の地球とテクノクラシーの火星という、2つの異なる体制の間で葛藤する若者たちの姿が描かれている。SF小説というよりも青春小説の範疇かもしれない。革命や戦争、権力闘争といった血なまぐさいものがかなり美化されているのは仕方ないかも。○2022/07/31
小太郎
32
なかなか捗らずに時間が掛かりました。折りたたみ北京が素晴らしかったので期待して読んだのですが予想とは随分違う感じでした。話は22世紀に火星と地球の独立戦争が終わった後世界を火星のプリンセス(このワードには無暗に反応してしまいます 笑)ロレインを主人公にした大河ドラマ。所謂背景としてはガンダムや月は無慈悲な夜の女王のような世界観ですが今一つのめり込めなかったのは語り口かな。こういう静かなSFは全然OKなんだけど、見せ場やドキドキ感があまりなくて慣れるのに時間が掛かったんだと思います。★32024/05/05
宇宙猫
27
★★★★ 激しい猫のかまって攻撃のため3日もかかってしまったが、面白かった。社会主義と資本主義。権威と若者。様々な物事の狭間で揺れる若者をメインに、周りの大人の思いや過去の事件を絡めて社会の在り方を問いかけている。引用が多いのと文章が少し読みにくいのが大変だったけど、色々と考えさせられる内容だった。火星の様子が魅力的に描かれていて楽しく読めた。D2022/06/05
かもめ通信
25
これはよかった!すごくよかった!!青春小説として読むことや、宇宙開発を絡めたSFとして読むことはもちろん、現代社会に置き換えて、中国と欧米諸国、あるいはロシアと……となどと、想像を巡らしながら社会派小説として読むことも可能だが、どう読んでもこれは傑作。読了まで思いの外時間がかかったが、じっくり読んだ甲斐があった。郝景芳、この先も目がはなせない作家だ。2022/05/16