出版社内容情報
英国の小さな海辺の町で書店を営むジュリアンは、町はずれのシルバービュー荘に住むエドワードと親しくなるが、ある日、エドワードから見知らぬ女に手紙を渡すよう頼まれる。一方、英国諜報部長は重大な機密漏洩の犯人を追ってシルバービュー荘を訪ねるが……
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
73
巨匠の洗練された筆運びに魅了されていくにつれ、これが遺作なのだという哀しさも降り積もり、満足感を感じる共に寂しさも感じる複雑な読書だった。登場人物それぞれの人生はほんの表層しか描かれていないため、思わず語られていないことまで色々と想像してしまう。過去の大作たちと比べると物足りなさもあり、決して最良とは言えないのだろうが、堅実なプロットと優美なまでの文章のなかにスパイ小説の巨匠、その精華を見た。唯一無二の読書をありがとうございましたと言いたい。改めてご冥福をお祈りします。2021/12/18
Panzer Leader
68
イギリス情報機関の国内保安責任者の元に女性が訪れ手紙を託す。その頃トレーダーを引退して書店を開いた青年の元に父の友人であった人物が現れる。この出来事がどのように結びついていくのかいつものル・カレ調で語られていく。ル・カレより自分が死んだとき未完成の原稿があったら完成させてくれないかとの依頼を受けて息子である作家ニック・ハーカウェイが脱稿した作品。但し息子によれば作品はほぼ出来上がっていてほんの少しの編集作業で完成をみたと述べている。全盛期の作品ほどではないが巧みな仕掛けと優雅な文体の持ち味を堪能できる。2022/01/04
ゆのん
66
ジョン・ル・カレの遺作。偉大なる作家がまた1人この世を去った。もう彼の新作を読む事は無いとの寂しさがあるからか、本書も寂寥感溢が溢れているように感じる。静かに丁寧に書かれているのが伝わり、読み手であるこちら側も丁寧に一言一言を読んでいく。自分の正義の為に全ての人を欺いて生きてきた諜報部員の孤独と悲哀がヒシヒシと伝わってくる。あとがきは作家でもある息子の執筆。2022/05/27
キムチ２７
60
装丁に一目ぼれで借り、読み始めたものの、登場人物が錯綜してなかなかエンジンかからず。徐々にダイアログの全体像が見えてきて～歯車の動きがくっきりと。ジュリアン・リリー・デボラ・エドワードのやり取りが回転して行く。表面的には一見穏やかなやり取りの底流は国を巻き込む奔流が。見えぬ糸に操られる男女・・組織を国を裏切り、はては妻を。家族3人皆スパイという宿命的な共同体の内面はうそ寒く仄暗い冷え冷えとしたものを感じる。冷戦最中の空気感を書かせたら超一流の筆者が死ぬまで語らなかった中身はそのままあの世へ持ち去った。2022/02/03
マリリン
47
読みにくさはあるけど惹かれるジョン・ル・カレの作品。本作が遺作。登場人物の名称が暗号の如く変化する感を楽しむのが病みつきになる。それぞれの過去が仮面を剥がすように浮かびあがり繋がってゆきその先に現在がある感が面白い。一見穏やかな生活の中で現役を離れても元スパイが暗躍する世界。書店主も...そうだったのか。既読の同著者の作品で一番好きな「ナイロビの蜂」を再読したくなった。2022/04/25
