出版社内容情報
カズオ・イシグロ[イシグロ カズオ]
著・文・その他
内容説明
1979年の秋、24歳のカズオ・イシグロは大学院で創作を学ぶため、小さな村にいた。静かな屋根裏部屋の孤独のなかで、彼は生まれた町、長崎についての話を書きはじめる―。世界的作家の知られざる若き日々、音楽から得たインスピレーション、創作に対する考え、そして文学の未来まで。2017年のノーベル賞作家の受賞記念講演を、英文と日本語訳で完全収録。
著者等紹介
イシグロ,カズオ[イシグロ,カズオ] [Ishiguro,Kazuo]
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イーストアングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。2017年、ノーベル文学賞受賞
土屋政雄[ツチヤマサオ]
英米文学翻訳家。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
100
最初は受賞講演というより久しぶりに会った遠い親戚の叔父さんが生い立ちを話し出した、的語り口。彼が大学院創作科の時に滞在したノーフォーク州の小さな村の平らに広がる農地と屋根裏部屋が目に浮かぶ。そののどかに見える生活の中で“差し迫った思いに取りつかれ”“生まれた町、長崎”について書き始めたのが「遠い山なみの光」。その後もturning pointに導かれるように作品が生まれる。失われた時を求めて、トム・ウェイツ、特急二十世紀、収容所訪問…。どこか使命感を帯びた創作活動へ。この時代文学が果たしうる役割を訴える。2019/01/20
kaoru
76
左ページが原文、右ページが訳文という作りの本。5歳でイギリスに渡った著者が作家を目指すに至る経緯と日本に対する思い、『失われた時を求めて』に多大な示唆を受け、『日の名残り』の執筆の際にはトム・ウェイツの歌唱にインスピレーションを得た。幼少期から「リベラルで自由主義的な価値観」を信じてきたイシグロはそれが幻想であったかもしれない、と近年感じるようになる。「全体主義がはびこり…歴史上類を見ない大虐殺がはびこるヨーロッパを年上の世代が見事に変身させるのを見てきた」彼の世代は、今や極右思想やナショナリズムが⇒2021/05/17
優希
50
カズオ・イシグロのノーベル賞に関わる公演になります。小説を書くことはひとつひとつの出会いなのかもしれませんね。これからはイシグロ作品を読むたびに同じ風景を見るのでしょう。2023/09/03
MAEDA Toshiyuki まちかど読書会
39
翻訳家の土屋政雄先生の講演があり、その会場に早川書房の特設販売所が設けられ、そこで購入。講演を聞いた後、読むとカズオイシグロのメッセージがしみじみと心に染み入る翻訳だと改めて納得する。英語が苦手な私にとって翻訳家は偉大な存在です。正確な英文理解と正確な文脈把握にもとづき、自分の中の日本語に照らし合わせて、納得が行くまで日本文を書き直す。土屋先生の翻訳は誠実な職人仕事であり、そのおかげでカズオイシグロ作品を読める幸運に、改めて土屋先生に感謝します。2018/03/11
mayumi225
35
いつからかもう,私はカズオイシグロその人とその文章に恋をしているわけですが,このスピーチは彼の肉声が聞こえてくるようで,至福の読書時間でした。スピーチはやはり原文でなければ流れや間が味わえませんが,その意味でも英和対訳の本書はとてもセンスがいい。彼自身の人生の段階ごとに,あの作品,あの場面,あの構想が生まれた瞬間の創作秘話なども散りばめつつ,親密で,謙虚で,深い思索と展望のある内容でした。軽やかなのにね。珠玉です。2018/02/17