内容説明
元奴隷のセサとその娘は幽霊屋敷に暮らしていた。長年怒れる霊に蹂躙されてきたが、セサはそれが彼女の死んだ赤ん坊の復讐と信じ耐え続けた。やがて、旧知の仲間が幽霊を追い払い、屋敷に平穏が訪れるかに思えた。しかし、謎の若い女「ビラヴド」の到来が、再び母娘を狂気の日々に追い込む。死んだ赤ん坊の墓碑銘と同じ名のこの女は、一体何者なのか?ノーベル賞受賞の契機となった著者の代表作。ピュリッツァー賞受賞。
著者等紹介
モリスン,トニ[モリスン,トニ][Morrison,Toni]
1931年、オハイオ州生まれ。現代アメリカを代表する小説家。ハワード大学を卒業後、コーネル大学大学院で文学の修士号を取得した。以降、大手出版社ランダムハウスで編集者として働きながら、小説の執筆を続け、1970年に『青い眼がほしい』でデビュー。1973年には第二長篇『スーラ』で全米図書賞の候補となった。1977年の『ソロモンの歌』(以上すべてハヤカワ文庫刊)は全米批評家協会賞、アメリカ芸術院賞に輝き、第五長篇となる1987年発表の『ビラヴド』でピュリッツァー賞を受賞した
吉田廸子[ヨシダミチコ]
青山学院大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
280
【原書・オーディブル・ピューリッツァー賞①】読み友さんのレビューに惹かれて手に取ったはいいが、なんて難しい。作者ご本人の朗読(よってプロではない)に加え、時系列がめちゃくちゃ…。おかげで冒頭を何度も聴き直すことに。アンダーグラウンド・レイルロードの話は今までにも読んだことはあるが、これはフィクションとはいえ、他を圧倒する凄まじさ。暴力、そして全体を覆う静謐さ。この作者がノーベル文学賞を取った意味を考えつつ、聴き終えました。2016/08/25
NAO
75
ビラヴドは、自分の恨みをはらすため、自分の怒りを鎮めるために、どうして自分が殺されなければならなかったかを詳細に知りたがった。セスは、自分が殺した赤ん坊が戻って来てくれたと思い込み、徐々に精神を崩壊させていく。だが、あまりにも過酷な目にあったために自分をなくしてしまい過去を封じ込めてしまっている者にとって、過去を語ることは自分自身を再構築することでもある。こんなにも酷い出来事が、かつて本当にあったということを決して忘れてはいけないとあらためて思った。2020/08/17
Willie the Wildcat
67
生命と魂。人の持つ本質を問い掛け、Afro-Americanのルーツに結びつける。随所に溢れる魂との語らい。心底に求める心が呼び覚ます魂。故に、継承される本質ではなかろうか。あくまで自然体で語られる真実と、流れる沈黙の肯定・否定の暗喩。”計画”という言葉に微笑むセサと、”シブミザクラ”という言葉を耳にしたセサ。これら2つの情景が印象的。共通項は選択肢の無い現実と、苦境に光を見出そうとする姿勢。本著の重厚さが、静かな読後感となる。2018/05/20
Apple
44
人間としての権利や尊厳を散々踏みにじられてきた人々の、自分たちの経験を「語り継がなければならない」「忘れてしまいたい」という葛藤が言葉の数々から伝わってきました。作品中の白人による虐待や処刑の描写が、現実に起こっていた出来事だと思うと怖気を感じます。物語中には黒人を虐待しなかったり逃亡者を捕まえようとしない白人も出てきますが、すべては白人の一存で黒人の運命が決まってしまうような時代であることは全く変わらないというのが実感でした。ベビー・サックスの「白人の存在が不幸なのだ」みたいな言葉が印象に残りました。2023/12/15
天の川
42
Beloved~愛されし者。奴隷船から投げ捨てられた数多の骸。繁殖のために強要される性行為。生まれるとすぐに売られてしまう我が子。馬の如くハミをはめられる懲罰。家畜以下の扱いを受ける多くの奴隷達。南北戦争が終わっても、逃亡奴隷法は存続し、続く屈辱。時系列や語り手が変わる上、謎が提示されたまま手探りで読み進める作業は苦しく、セサの謎の正体がわかるにつれ、そして彼女の狂気が深まるにつれ、違う苦しさも加わった。理解できたと思うところまでいかない。きっともう一度読む。2020/01/17