内容説明
ニック・チャールズね、といってもぐり酒場のカウンターに近寄ってきたのは、昔なじみの若い娘だった。母と離婚してそれきりになっている発明家の父に会いたいので探してほしいという。私は顧問弁護士に頼むよう勧めたが、数日後その発明家の秘書が死体で見つかった。だが、依然として発明家の消息は知れない。ハードボイルド小説の始祖がおしどり探偵ニックとノラの活躍を都会小説風に描く異色作。40年ぶりの新訳決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
299
ミステリーとしても主人公の探偵ニックの直観主義には不満が残るし、ニックをはじめ登場人物たちのいずれにも共感を持ちにくい(とりわけニックには)。しかし、最大の欠陥は日本語の訳文にあるだろう。小説全体のコンテクストを理解したうえで訳しているのかが、はなはだ疑問だ。例えば突然ギャングのモレリがニックの家に現れた場面で、ニックは何の脈絡もなく妻のノラを「部屋の向こうまですっ跳んで」いくほど殴りつける。また、会話文(特にノラの)に一貫性がなく、品位にも欠ける。「このギリシャ人のシラミ野郎め」という意味不明のセリフ⇒2017/05/11
ケイ
116
楽しんで読めた。読後にこれが「マルタの鷹」と同作者だと知って驚く。1世紀以上も前の話なら納得だ。今なら、家庭内DVですぐに逮捕されるだろうし、警官が横暴すぎると暴動が起こりそう。ノラはとても魅力的で素敵だなと思っていたけれど、進むにつれてなんとも退屈な女性に見えてきた。登場人物たちに誰一人まともな人がおらず、冗談が過ぎる気もするし、終盤は先が見えてくるし…。でも、悪くないストーリー。2016/07/31
まふ
114
著者の長編第5冊目の作品。秘書が殺害され、雇い主の発明家が犯人と目されるが行方不明になる。元探偵のニックはリッチなノラと結婚し悠々自適の毎日だったが、なし崩し的に発明家の捜索を依頼される。発明家の元妻、その娘、息子などが勝手なウソをつき、ギャングも出てきて何だかわからないうちに2人目の被害者が出てきてモヤモヤと事態は進み、意外な結末を迎える…。途中で物語の進行がダレ気味になるものの最後にようやく名探偵の見事な推理により一挙に解決する。駄作と思いきや、とんでもなく見事な名作であった。G1000。2024/02/24
セウテス
60
〔再読〕長編第5作品、作者最後の作品。おしどり探偵ニックとノラの活躍を、都会派作品風に描いた異色作。昔ハードボイルドでやっていた凄腕の探偵が、結婚し愛妻と平和に暮らしている処に事件が起こる。有名な発明家が行方不明となり、その娘が知り合いであった為に捜索の依頼を受けるという話。フーダニットであり、それなりには納得の真犯人であり夫婦の会話はけっこう楽しめる。しかし、ハメット作品には別の期待をする読者も多いだろうと思われ、評価の難しい作品だと思う。強面の男が愛妻家になるというのが、アメリカでは魅力なのだろう。2018/05/27
SIGERU
22
ハードボイルド派の驍将ハメットの、最後の長篇。コンチネンタル・オプやサム・スペードなど、非情な探偵たちが活躍する名作群と異なり、ニックとノラ夫婦の軽妙なかけ合いが特徴的な娯楽作。テンポが良くすらすら読めるのは、或いは映像化を意識したためか。発表後すぐに、パウエルとマーナ・ロイのキャストで映画化され、大ヒットしたのも肯ける仕上がりだ。ニックが朝から酒を嗜んだり、頻繁に宿酔に悩む場面には、作者自身の当時の生活ぶりが反映されているらしい。 ハメットも、あとは『デイン家の呪い』を残すのみ。今年中に完読したい。2021/09/24