内容説明
パサデナの裕福な未亡人の依頼は、盗まれて売りに出されたらしい家宝の古金貨を取り戻してほしいというものだった。夫人は歌手あがりの息子の嫁を疑っていたが、マーロウは依頼人の家庭にそれだけではない謎が隠されているのを感じとった。傲慢な夫人、借金に悩む生活力のない息子、どこか弱々しい印象の秘書、マーロウをつけまわす黒メガネの男。やがて事件の関係者が1人、2人と殺されていき、マーロウの前には事件の意外な様相と過去の出来事が浮かび上がってくる。冷たく透明な一人称の文体で描かれる、ハードボイルド小説の巨匠の名作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kajitt22
48
北方謙三『さらば荒野』に触発され本棚から再読。冒頭数ページでチャンドラー独特のシニカルな文章に、やはりこれだとニヤニヤ。極付はクラブのバーテンダーとマーロウの会話。「きついマティニーをもらうかな」「なんでめしあがります?スプーン、ナイフそれともフォークですか?」「こまかく切ってもってきてくれよ。手でつまんでかじるから」物語は1940年代、古金貨をめぐるダークなミステリーだがプロットよりもやはりこのシニカルな文章が魅力。私の読んだポケットミステリーは、田中小実昌氏の翻訳でした。2022/06/15
GaGa
46
この作品を清水俊二訳で読むのは初めて。しかし「湖中の女」と違ってハヤカワミステリ版の田中小実昌の方が逆に読み物としては適していると思わせる一冊となってしまっているのが面白い。なによりプロットの稚拙さ、そして色気のなさ、これが、マーロウの一人称「私」より「俺」の方がふさわしい気がどうにもしてしまう。まあ、大作家にもこういう作品はあるものです。2011/11/13
かるかん
40
初期に比べてマーロウの尖ってた部分が丸くなり始めている気がする. それでも話はおもしろく,かつ複雑なのでところどころページをもとに戻しながら読み進めていった. やっぱりかっこいい.2015/04/08
催涙雨
36
きっかけとなる依頼とは別の出来事や思惑が雁字搦めになり複雑の様相を呈していく様は相変わらずだが、前二作に比べて事件の相関はわかりやすい。複数にまたがった事件の全貌がマーロウの手によって明かされる終盤にはそれぞれの糸がいかに緻密に絡み合っていたかに気付かされる。その収束の仕方にはハードボイルドだけではなく推理小説としての面白さも詰め込まれていると思う。本作には血腥い暴力沙汰の側杖を食いながらもすかした皮肉を並べるマーロウの姿はないがカシディ事件のでっち上げをはじめウィットに富んだその切れ味は変わらず鋭い。2017/09/08
背番号10@せばてん。
32
1988年10月2日読了。2007年にあの村上春樹氏の翻訳により、改訂版が上梓された本書ですが、自分にはやはりこの清水俊二氏訳が馴染み深いです。巨星に心より合掌。(2024年7月15日入力)1988/10/02