出版社内容情報
陸海の対立解消に奔走する者、種を宇宙に送り込もうとする者……苛烈な闘争の時代に己の信念を貫く者達が、この星に生の輝きを灯す究極の黙示録巨篇
内容説明
困難な時代においても、深宇宙研究開発協会は人類の記録と生命の種を系外惑星に送り込もうと計画していた。その理念に共感した星川ユイは協会で働き始めるが、大量の資源を必要とする宇宙開発は世間から激しい非難を浴びる。ユイは支援を求めて青澄に会いに行くが…苛烈を極める物資争奪戦、繰り返される殺戮、滅亡を意味する環境変動―いくたびの難事を経てなお信念を貫いて生きる者たちを描破した、比類なきSF巨篇。
著者等紹介
上田早夕里[ウエダサユリ]
兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、同作でデビュー。2010年刊行の長篇『華竜の宮』は、「ベストSF2010国内篇」にて第1位を獲得、第32回日本SF大賞も受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆかーん
74
「大異変」が刻々と迫る中、ラブカとの抗争はますます激化していきます。ラブカを保護して過激派を孤立することが和平の近道と理解するものの、解決への糸口はなかなかつかめません。陸上民と海上民という違いだけで戦いを続ける彼らの姿は、現代の白人と黒人を差別する社会を見ているようです。人類が一つになって「大異変」への対策をすべき時に、団体や組織がバラバラな状態では、この先に未来はありません。そんな中、支援団体の理事長・青澄が、次の世代が新しい社会を作り出せるよう、亡くなる直前まで尽力を注ぐ姿に胸が一杯になりました。2017/02/28
naoっぴ
62
人類が辿ってきた争いの歴史をなぞるような、混沌とした世界が描かれたSF巨篇だった。人類存亡の危機を目前としながら、物資や金の利権を争い、怒りにまかせて殺戮を繰り返す人々、その裏で人を駒にし神さながらに世を動かす傲慢な者たちの姿には、人間の愚かさがつきつけられるようで辛くなる。一方でユイの宇宙開発のエピソードの部分は青春小説のような爽やかさがあり希望を感じる。歴史は繰り返すというけれど、繰り返してほしくないよと思いながら読了。熱い男たちの闘争に圧倒された。2021/04/07
ゆきちん
52
うー、読み切った…っていう良い意味での脱力感が。「華竜の宮」のエピローグがあるから、どうなるのかはわかっていたはずなんだけど、それでも、揺さぶられる人々のあがき。舞台は陸海空に広がり、人類だけでなく魚舟や生命体との絆までがどうしようもなくあたたかく切ない。個人的に前作から贔屓にしていた青澄が老いてなお活躍し、その生涯を閉じる様は自分が彼のアシスタント生命体になった気分で目を閉じた。「華竜の宮」より具体的で生々しく感じた。SFだけど臨場感というか。セットで読むべき。「さて、次はどんな夢を見ようかしらー」2017/02/28
スカラベ
52
「華竜の宮」のエピローグに向けての物語も完結。地球を襲う予測された<大異変>に向かい、海の民と陸の民との終わらない争いを通して、血に染まった汚れた深紅の碑文が刻まれていく。かたや、人類の種を残すために宇宙開発を通し、新たなる星を求め熱い血をたぎらせる人々。物語は、人の野蛮な醜さと純粋さを対比させつつ綴られる。舞台は未来だが、SFというよりは、人間の本質に迫る重いテーマが深層に横たわる。自らの姿を人から魚そのものへと変え生き抜くルーシィと宇宙船アキーリ号。次はこの行く末を描く生粋かつ重厚なSFに期待したい。2016/03/26
akio
44
圧巻。前作を越えるスケールと世界観、特に人間ドラマが圧倒的でした。〈大異変〉が迫る中、海上人と陸上人との対立は増すばかり。平和とは生き方とは何か。壮大なテーマに政治、経済、宗教、文化、科学、あらゆる面から描かれる物語が交差し、絡み合い複雑さを増す様に絡めとられるようでした。ザフィール、ユイ、たくさんの登場人物たちの生き様に胸が熱くなり、ままならない世界に絶望して、また夢を持ち希望を抱く。なんて業の深い生き物なのでしょうか。それでも青澄、あなたの物語が読めて私は心底幸せ者です。2019/05/22