内容説明
軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。その残骸と月往還船からなる構造体は、無数の死体とともに漂流を始める。だが、隔離された気密区画には数名の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通じて生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する…。真空との絶望的な闘いの果てに待ち受けているものとは?―小川一水作品史上、最も苛酷なサバイバル。
著者等紹介
小川一水[オガワイッスイ]
1975年岐阜県生まれ。1996年、『まずは一報ポプラパレスより』で長篇デビュー(河出智紀名義)。2003年発表の月面開発SF『第六大陸』が第35回星雲賞日本長編部門を受賞して以降、骨太な本格SFの書き手として期待が高まっている。また、2005年の短篇集『老ヴォールの惑星』で「ベストSF2005」国内篇第1位を獲得、収録作の「漂った男」で第37回星雲賞日本短編部門を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sk4
92
コンプレックスはそれぞれの人の宇宙にとっては重大な関心事。大勢が利用する宇宙ステーションで起こった整備不良の大爆発。搭乗口の1ユニット丸ごと宇宙客船が繋がったまま地球落下軌道に投げ出された生存者たちと彼らが抱えるそれぞれの宇宙。生き残りをかけて自分の宇宙を晒し心を一つにして乗り切ろうとする彼らの試みを、しかしながら押し潰す地球社会・月社会という巨大な二つのコンプレックス。命を捨てて自分を護った功を目の当たりにしてキトゥンの空虚な宇宙に灯った光を、地球社会も月社会もまだ探ってもいない。物語はこれからだ。2013/12/09
おかむー
61
ある意味典型的なSFパニックサスペンスといったフォーマットだが、しっかりと練られた設定なので安心感のある良作でした。『よくできました』。事故によって崩壊した宇宙ステーションから切り離された構造体のなかで生き残った人々の群像劇ではあるのだけれど、登場人物に関してはパニックものにありがちな個性といった感じでちょっと目新しさに欠けるかな。特徴的なのは宇宙という密室の容赦ない絶望感と、それに対する綿密な設定のもとパズルのように組みあがってゆく生き残りへの道筋。結末はちょっとご都合すぎな気がしなくもない2015/05/05
ざるこ
42
真空と聞いて思いつくのは浅漬けをしたジップロック。あの中のキュウリが人だったらどうなる?…宇宙ステーション「望天」で事故が起き、残骸に残されて宇宙を漂流することになる。真空状態に陥り亡くなっていく者がほとんどで、かろうじて気密区画に残された生存者は10人と1匹。真空区画と宇宙空間。読むほどに息苦しくなってくる。極限状態の中起こる生存者の衝突、裏切り。それぞれが抱える事情や思惑が絡み、危機の連続でこちらも緊張しっぱなし。どっと疲れるけど夢中になって読める。巻頭に平面図があり移動経路を確認できるのがいいです。2019/03/09
鷺@みんさー
42
いつ読んだかはわすれたけど、内容がすっごく面白かったのは覚えてる。宇宙ステーションの描写にわくわくしてると、いきなりの大惨事。真空という見えない敵との闘い。ずっとハラハラし通しで、一気読みだった。
akira
35
シリーズ外小説。 予想より大きめの規模だった。宇宙船くらいのを想像してたので。生存者たちの人間性とその状況。なかなかいい。 映画でよくありそうな雰囲気だが、どこか和製感があるのは作者の空気感かなと。極限状況で試される判断。正しいから選ぶ、間違いだから選ばないを超えた選択。本作はそのあたりの読み応えが非常に良かった。 「選ぶか、選ばないかだ」2016/09/18