内容説明
「テロリンを殺せ」―ラジオからは戦意高揚の歌が流れ、興奮状態の民衆は暴走を繰り返しリンチ事件を起こす。この国の狂気に煽られ志願兵となった労働者の椹木は、愛人の寛子を売春宿に沈め、対テロリンの最前線である大陸に渡る。そこは究極兵器「神充」争奪戦が展開する殺戮の地だった。血煙が舞い屍肉が発酵する恍惚の桃源郷で、椹木と彼を追った寛子は、けだもの以下の存在と化してゆく…高濃度高純度の戦争小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とくけんちょ
53
これは凄い。とにかく、この人の作品はエネルギーが凝縮されている。完全に好みがわかれる。テロもエロもグロもごちゃ混ぜにして煮込み続けて濃縮している。謎の生命体の圧倒的な力によって、人類は無意味に数を減らす。結局、なんの救いもなく話は終わる。しかし、特殊な世界観ではあるが、限りなく余計なものを削ぎ落とした純愛小説であったような気がする。2021/05/30
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
41
最近本を読む時間がなくなった。もしかするともうあまり本を読まなくなるのかもしれない。本を読まなくなったらどうやってレビューを書いたらいいんだろうか?なんかさみしい。吉村萬壱氏の既刊小説では唯一の未読書をいよいよ読んだ。500ページ越えの長編を読み切る脳体力を持ち合わせていないが、そこは愛で乗り切る。芥川賞を獲っての書き下ろしということで好きなことを好きなように書かせてもらえたのであろう、豪華バイキング料理を食い合わせと胃の限界を無視して大皿にこれでもかと盛り合わせた感。早く次作を読みたい。なんかさみしい。2017/05/28
hit4papa
37
異国のテロリストを殲滅せんと、戦闘員となった市井の人々が奏でるSFテイストの群像劇です。登場人物たちは、品性下劣ともいうべき輩。著者独特の筆致で、誰もが持っている根源的ない厭らしさを、ど直球で突きつけてきます。己の欲望のままに行動し、他者を蹂躙しても生き残っていく様が縷々描かれるのです。本作品は、なんといっても、異形の生物兵器「神充」が秀逸。世界の終わりを予感させるに足る絶対的な破壊力に、「神充」とは言いえて妙です。あの大傑作の漫画を彷彿させる誕生シーンは、読み応えたっぷりでしょう。2016/09/24
rosetta
31
初めて読んだこの作者の『CF』には何も感じる所がなかったが、作者とのやり取りや赤松さんのお薦めもあって手に取ってみたこの本は圧倒的に面白かった。『ドグラ・マグラ』めいた寄書のような、マジックリアリズムのような、ばら撒かれた無秩序が、解明されない現象が読者を想像世界に締め付ける。可愛らしい「テロリン」という名前、字面から神々しい「神充」という名の醜い化け物。人が人である証こそが人を死に至らしめるのか。SFであり寓話であり、なんだったらコロナの予言とも読める。作品に殆ど触れない佐藤亜紀の解説も秀逸。2022/11/18
星落秋風五丈原
30
「テロリン達による実に巧妙で大規模且つ長期に亘る破壊活動とサイバーテロによって、ごく短い期間に国家は重度の機能麻痺状態に陥った。(p30)」本書に登場する日本は、そんな所だ。響きこそ可愛いが、「テロリン」とは、つまりはテロリスト。「あいつがテロリンでは」と疑心暗鬼に駆られた人々は、疑いだけで、所構わず人を殴り、死なせる。大抵の女は男に犯され、その場限りの快楽を求めて薬に走る者もいる。「凄まじい」という表現がぴったりの、救いや癒しとは無縁の世界だ。そもそも救われたいと思っていないのではないか、とさえ思える。2008/05/13