出版社内容情報
古タイヤの溝掘り職人であるジャックの日常はある日狂い始める……。ディックの自伝的作品にして主流文学の代表作を、新訳で刊行
内容説明
1950年代のカリフォルニア、古タイヤの溝彫りをして働くジャック・イジドアは、雑多な知識をただ溜め込んでいる30代の男。万引きをして捕まったジャックは、妹夫婦と同居することになる。わがままな妹フェイと暴力的な夫チャーリー。明るい太陽と乾いた大地の中、人々は誰もが精神を病んでいる。やがてジャックは、「世界が終わる」という予言を信じるようになる…。ディック自身の分身であるジャックを描く自伝的小説。
著者等紹介
阿部重夫[アベシゲオ]
1948年生、東京大学文学部社会学科卒、翻訳家・作家・総合誌「FACTA」発行人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
58
ディックの小説にはエキセントリックな登場人物が多く(特に女性)、その側杖を食ってひどい目にあう人物も少なくはないのだが、これはその点特にひどい作品だったように思う。彼の長編を読むのは今回で二十八作を数えるが、インナースペースの面では今まででいちばん腹立たしさを感じるような救いのない傾向が強かった。でもそれが作品を引っ張り、読ませるためのポイントになっていることは間違いない。特にフェイの存在と彼女の人物造形が作品に寄与する面が非常に大きい。彼女の半分破綻した人格が引き寄せる三角関係的エピソードがなければこの2020/02/24
Vakira
38
この本ディックのSFではない文学本だ。奇想天外な世界とその展開はなし。昔だったら投げ出していたかも知れない。一般小説だが 面白い。ディックは黒澤明の「羅生門」見てたかな?登場人物4人の各々の視点で語られる。登場人物のキャラ魅かれ,SFでないのに読み続けてしまう。このそれぞれの思いが面白い。ディック版姦通小説とも言えるし、「白痴」とも言える。ファムファタールではないが1人の女性の自由過ぎる我儘な行動が4人の人生を狂わす。終盤なかなかのヴァイオレンス表現。ディックこんな作品も書けるんだな。素晴らしい。 2018/01/16
星落秋風五丈原
34
キリスト教、仏教、ヒンドゥー教、いずれの宗教も終末論が唱えられている。“世界の終わりが来た時に善人が救われ、悪人は地獄に落ちる”というのが共通認識である。「告白」と銘打っており、最初の語り手は「ぼく」となっているが、実は語り手は複数いる。ジャックの妹フェイがいきなり「あたしは」と始めたり、三人称視点だがチャーリーやフェイの浮気相手ナットが語り手をつとめる章もある。作家志望者がこんな作品を書いてきたら「視点を統一すべし」とアドバイスするが、ディックの事だから意図があってやっている。2022/11/11
Kensuke
13
この作品をどう評価したらいいのか分からない。ディックの自伝的なノンSF小説。1950年代のカリフォルニア、ディックの分身と思われる”古タイヤの溝堀り”の仕事をしている生活能力のないオタク気質のジャック・イジドア。妹のフェイとDV旦那のチャーリー。登場人物全員こじらせメン。ここに当時のアメリカ西海岸のヒッピー・ニューエイジ思想が絡んでくる。最近だけでも映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」とかNetflixでラジニーシのドキュメンタリーシリーズ「ワイルド・ワイルド・カントリー」とか触れる機会が2019/11/06
キッチンタイマー
11
本作は自伝だと聞いていたけれど、フェイにもチャーリーにもナットにもディックが入り込んでいるようで、どう把握すればよいのか当惑する。正直あれだけの未来世界ばかり描いてたディックはジャックのように「ファクトとフェイクがあれば必ずフェイクに」入り込み、その小説に没頭してしまうと思う。さて暴力と暴力のパワーゲームを繰り広げるチャーリーとフェイの夫婦は既に冒頭でどのような未来を迎えるか書かれており、細部は後から展開する。いかにもアメリカ的な物語。いかにも生きて行くためにエゴに正直な話。2018/08/17