内容説明
聖なる都市バンコクは、環境省の白シャツ隊隊長ジェイディーの失脚後、一触即発の状態にあった。カロリー企業に対する王国最後の砦“種子バンク”を管理する環境省と、カロリー企業との協調路線をとる通産省の利害は激しく対立していた。そして、新人類の都へと旅立つことを夢見るエミコが、その想いのあまり取った行動により、首都は未曾有の危機に陥っていった。新たな世界観を提示し、絶賛を浴びた新鋭によるエコSF。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞などSF界の賞を総なめにした作品。
著者等紹介
バチガルピ,パオロ[バチガルピ,パオロ][Bacigalupi,Paolo]
1973年コロラド生まれ。オバーリン大学で、東アジア学と中国語を専攻した。在学中から中国に渡航し、教師などをしながら数年間を中国で暮らす。帰国後はウェブ開発者や環境専門誌の編集者をしながら小説を書き、1999年に『F&SF』誌に掲載された中篇“Pocketful of Dharma”でデビューを果たした。2005年に発表された「カロリーマン」は、シオドア・スタージョン記念賞を受賞。2008年に発表の「第六ポンプ」では、ローカス賞ノヴェレット部門を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
426
ここに展開するのはSFの世界というよりは、ファンタジー世界なのだろう。もちろん、ファンタジーだからといって、そこが夢幻的に美しい世界であるとは限らない。ここは政治体制も経済原則も、そしてその社会自体もまたおよそどのように了解していいのかわからない、混沌としたアジア的秩序の中にあるバンコクである。そこに西欧的理性と合理性を持った存在であるアンダースンが降り立つ。しかし、畢竟それらは混じり合うことがないままである。また、ねじまき少女エミコの着想は、なんだかゲイシャガールみたいであり、そこから出ることもない。2021/12/05
藤月はな(灯れ松明の火)
67
(辛口コメントです)「〇〇賞、受賞!」は無闇に信じちゃいけないことを教えてくれる例。無理やり、収束した感が否めない印象でした。リーダーを殺されたからと言って横暴を市民に行う白シャツ部隊の愚劣さには本当に呆れるしかありません。そして最後までエミコの行き当たりばったりな行動には馴染めません。アンダーソンとエミコの関係性は、帝国主義での西欧とアジア、男と女のような支配者/被支配者が如実に表現されていて不快でしたし、カニヤの業へ与えられた罰も予定調和すぎます。2014/10/14
GaGa
58
後半が怒涛の展開。正直、もう少しじっくりと話を進めてもらえた方がよかった気がする。登場人物が(エミコを含む)妙に人間臭くて良い。実際にクーデターの多い国であるタイを舞台にしているのも臨場感があっていい。特にピーとなってからのジェイディーとカニヤのやり取りは、話の進行上、とてもうまく機能していると感心した。訳者あとがきに「暗い」とあるけれど、そうでもないぞ(笑)2011/08/19
とくけんちょ
57
ただのSFで終わってない。下巻に入ってからのスピード感が半端ない。今までは完全に服従し、欲望のはけ口としか扱われなかったねじまき少女。徐々にその自制心を超越する時、歴史が変わる。一度読んだだけでは、物語の細部にまで理解が及ばなかったが、充分に楽しめた。純粋に世界観や登場キャラがカッコいい。映像化してもらいたい。2022/04/11
fukumasagami
44
近未来のタイ王国、海面上昇で多くの国の沿岸部が水没し、化石燃料が枯渇し、遺伝子操作による疫病や害獣の蔓延る世界で繰り広げられる覇権争いが描かれる異形の未来に現実が追いつき追い越していることの恐ろしさ。世界はつねに破滅に向かって突き進んでいく。2025/03/12