出版社内容情報
こころの健康を害する前に知っておきたい病のこと。
不安や抑うつ、葛藤といったネガティブな心性はなぜ生じるのか。そういった逃れがたい感情を、人間はどう表現し、いかに克服を試み、また乗り越えようとしてきたのか--。それを探るべく「こころの病」の歴史を遡り、その発見や分類、対処法などの変遷をたどる。また多くの文学作品や絵画が表現した「こころの病」に、精神科医としての分析を加え、文化と病の関係に光を当てる。そして、「統合失調症」「PTSD」「適応障害」「パニック障害」といった現代の病に各種多様のストレスが深く関与している実態を詳述、それらと共生するための社会の在りようを提示する。こころの病の実像に具体的な例をあげて迫る本書のもうひとつの魅力は、読者の心情に寄り添うその文章にある。長年、臨床現場でこころを病むひとの苦悩を見てきた著者が綴る思い遣りに溢れた深い人間洞察のことばは、読む者の気持ちを惹きつけ、病を恐れる気持ちをやわらげてくれるだろう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紫羊
17
NHKラジオ第2「こころをよむ」シリーズの7月から9月放送分のテキスト。友だちに勧められて第3回の「『分裂病』と呼ばれた病気」から聴き始めた。著者はクリスチャンの精神科医。声音と語りが好ましく、話されている内容にも共感できる部分が多い。何となく白皙の青年医師を想像していたが、テキストの著者紹介の欄でにっこり微笑む誠実そうなお顔に、それはそれで好印象を持った。研修医時代の思い出や、臨床医として様々な患者さんと向き合ってきたお話が、穏やかな語り口で綴られている。良書。ラジオもあと4回、大切に聴きたい。2024/09/08
Ise Tsuyoshi
3
濃密なテキストだったのでここは自分の備忘として。▽健康を考えるときに身体的・精神的・社会的に加え「スピリチュアル」という視点があるのは新鮮だった。ムスリムやキリスト教徒とは違う大多数の日本人にとって「こころ/まごころ」という言葉で示されるものがそれにあたるのでは、というのが著者の見解▽断酒会型の「無批判の語り合い」は、話を聞いてもらえないのでは…などといった不安を払拭して「安心の場」を作り出す▽ラジオでの締めくくりは「ローマの信徒への手紙」から。「喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい」(12章15節)2024/11/23
れいまん
3
NHKカルチャーラジオ講座のテキスト。近代の精神病の解説から治療法、問題点が良く纏まっている。アルコール依存症の治療法は薬物もだめと方法はないが、「断酒会」によって成果が出ているそこには「無批判の語り合いから生まれてくる「居場所」に求められることは興味深い「無批判の語り合いを繰り返す」という単純愚直な方法が成果をあげている。「無条件の肯定的配慮」と「共感的理解」が提供され話し手は守秘義務に保護されつつ拒絶されたり批判される不安無しに自分を打ち明けることができるこのミーティングでエンパシーを働かせ相互傾聴す2024/09/28
みきすけぶんぶん
1
著者の精神科医としての心構えから始まり、名前だけは知っているうつ病、統合失調症、依存症などのこころの病と呼ばれる病気の現在(症状や治療法)が語られている。後半、依存症について、断酒会の効果、無批判の語り合いについての記述は以前読んだ東畑開人さんの本の内容ともつながって興味深かった。日本語では本来の意味では使用されていない、ぴったり当てはまる訳語がない「スピリチュアル」という単語についての考察にはなるほどと思った。2024/08/08