内容説明
本居春庭とその著作の探究を志してから四十年。師友との出会いと別れ、春庭をめぐる新資料の発掘…、戦前から戦後にいたる時の移ろいのなかで、ついに浮かび上がる盲目の語学者の人物像とは?春庭の生涯と著者の魂の彷徨が織りなす類い希な評伝文学。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nobuko Hashimoto
28
著者、足立氏による本居春庭研究は、戦争をはさんで40年にわたって続く。戦後、本居家が松阪市に大量の資料を寄贈し、蔵にしまい込まれていた未公刊資料が日の目を見る。それらの新資料や、足立氏の脚を使った探索によって、日本語学に多大な貢献を残した春庭の国語学の成立過程が明らかになっていく。著者の恩師や学友たちの波乱万丈の人生も丹念に描かれる。おおいに知的刺激を受ける労作。月イチ書評で取り上げました。https://www.kansai-woman.net/Review.php?id=2017402020/08/03
ジャズクラ本
11
◎感想は上巻に記した通り。刊行当時の朝日新聞の書評も、著者に妬みすら感じる、と異例の絶賛だったらしい。それでも著者は言う。書き終わって、いまさらながら浅学・無能を思い知り、不安・畏怖がつのるばかり、と。大作を終えたあとは意外とそんなものかもしれない。いやいや、読者には知的感動と静かな興奮が交差するばかりである。正に本居宣長の言う、「古事の記をらよめばいにしへの手振り言問い聞き見るごとし」の通りであった。/山田勘蔵「本居宣長翁全伝」/桜井祐吉「本居春庭翁略伝」/松永伍一「荘厳なる詩祭」2019/12/19
はる
10
図書館本。展示コーナー「人生いろいろ」から。ある日学校の授業中に、ある人のことが気になり始めてたまらなくなった…その人のこと、その人が書いたもの、たどった道筋住んだ場所まで気になって仕方がない。まさに恋の奴に掴み掛かられた状態。これはもう応援せずにはいられない。(こんなに懸命になれる出会いがわたしにももしかしたらあったのか!?見落としただけか?)評伝文学と裏表紙にはあるけれど、著者の自伝でもあったのだな。伊勢に行ってみようか、桜を訪ねて。2016/10/05
isao_key
8
下巻は春庭『詞の通路』についての解説から始まる。同時に自身の体験、学校を卒業し、就職、友人の妹との結婚、召集され戦地へ、戦後は新聞記者となる。恩師との再会、旧友の死など自分史としての一面も語られ、この評伝に深みを与えている。その間も春庭とその周辺についての研究は止めていない。大学や研究機関に属さず、在野の一研究者として40年以上一人の人物を追い続けた。この気力、根気はただごとではない。本作は吉川幸次郎博士にも注目され、芸術選奨文部大臣賞を受賞した。年月をかけ熟成させ、さらに昇華させた作品が見事に花開いた。2015/06/25
モリータ
8
巻末の吉川幸次郎と呉智英のエッセイが気になったし早く読みたかったので新刊の文庫版を読んだが、単行本上巻にあったような各種写真資料がないのが残念だった。春庭が実例による例証を最も大事にしたのではないかという部分は心強く読んだが、文法研究者以外の読者に、そして大多数の文法研究者にとっても、共感をもって読まれるべきものとは決して思いませんね。本筋と関係ないから書く必要がないにしても、皇學館卒業後(12章)から戦後まで(14章)の要約的描写は、いかにも空しい。2015/05/10