内容説明
建築家辰野金吾を父に持ち、名随筆家としても知られる仏文学者が、同窓の谷崎、師として仰ぐ露伴・鴎外・漱石らとの思い出を綴る。昭和初期から戦後までに交流した多才な文学者の素顔や審美眼と学問への深い愛が浮かび上がる自伝的随想集。改造社版の同題本(選集第四巻昭和24年刊)を底本にした完全版を文庫化。
目次
忘れ得ぬ風〓(ぼう)
最初の文化勲章―幸田・佐佐木両博士
逝ける人々
露伴先生の印象
上田万年と斎藤緑雨
夏目漱石
漱石・乃木将軍・赤彦・茂吉
寺田寅彦
長谷川如是閑
鈴木三重吉との因縁―喧嘩口論は酒の下物〔ほか〕
著者等紹介
辰野隆[タツノユタカ]
1888(明治21)年、建築家の辰野金吾の長男として東京・赤坂に生まれる。東京府立一中(現・日比谷高校)では谷崎潤一郎、吉井勇と同窓、府立一高では山田珠樹とも親交を結んだ。東京帝大仏文科卒業後、1921(大正10)年、助教授となりパリへ二年間留学。1948(昭和23)年の定年まで東大仏文科でフランス文学を講じる。門下から、多数の異才を輩出した。1964(昭和39)年、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
19
露伴、鴎外、漱石、潤一郎を近代日本文学の四天王だと評した著者が多くの文士と交わった回想エッセイ集。戦前戦中戦後と困難な時代を、フランス文学という分野を専門にして東大の教授でありつづけたという著者は、もちろん、人脈にも恵まれていたのだろうが、良くも悪くも世渡りの腕もあったに違いない。そうした著者の目から見たちょっと変わった面々の横顔がなおさら興味深く思えた。 2015/08/02
ととろ
4
旧制中学時代からの谷崎の同級生(ただし谷崎は2年飛び級である)であった辰野隆が同じ近代の世を生きた文豪達との交流を語る。谷崎については終盤で語られるが、途中で語られる漱石や乃木将軍の逸話も同時代に与えた衝撃の大きさを知る上で興味深いものだった。さて、谷崎の神童ぶりは自ら著した『神童』からその甚だしさを伺い知ることが可能であるが、傍から見た谷崎というのは本人が語る以上に文才に満ち溢れた「神童」であり、なるべくして文豪足り得たのであった。本著にて引用される幼少の谷崎作品から是非その片鱗を味わって欲しいと思う。2015/03/01
tekesuta
2
本の面白さと個人の考え方はまた別個のものであるが、最後の最後にニヒル・アナーキズムから愛国心と称する天皇制を拠り所とした心境の変化の一文を読み、渡辺一夫がたしか敗戦日記かなんかで書いてあった師への違和感の表明の意味が腑に落ちた。 2015/06/21
悠
2
漱石、露伴、寅彦、如是閑、潤一郎、等々。文人たちの横顔を軽妙にきりとっているようでいながら、一篇がすなわち、当の人物の器量を映し出した肖像(ポルトレ)たりえている。専門の仏文を駆使した作品評はいうに及ばず、漢籍の豊富な蓄積が文体に品格を添えることで、赤裸々な暴露や下ネタも野卑に堕することなく、巧みなユーモアに吹き出すこともしきり。ため息のでるような名調子である。玄人筋の高評もむべなるかな、という珠玉の随筆集で、敬して遠ざけてきたことが悔やまれる。漱石の死の直前をとらえた、著者との因縁浅からぬ挿話には絶句。2015/04/07
まひろん
1
何かが引っかかってとても読みづらく読了まで時間がかかってしまいました。2024/03/24