内容説明
一日おきに三枚ずつ渡されるニセ札をつかうことで「源さん」との関係を保とうとする私。しかし、その「ニセ札」が「ニセ」でなかったとしたら…。ニセ物と本物の転換を鮮やかに描く表題作ほか、視覚というテーマをめぐる不気味な幻想譚「めがね」など、戦後文学の旗手、再発見につながる七作を収める。
著者等紹介
武田泰淳[タケダタイジュン]
明治45(1912)年、東京・本郷の潮泉寺住職大島泰信の次男に生まれる。旧制浦和高校を経て東大支那文学科を中退。僧侶としての体験、左翼運動、戦時下における中国体験が、思想的重量感を持つ作品群の起動点となった。昭和18年『司馬遷』を刊行、21年以後、戦後文学の代表的旗手としてかずかずの創作を発表し、戦後文学に不滅の足跡を残した。51(1976)年10月没。48年『快楽』により日本文学大賞、51年『目まいのする散歩』により野間文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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YM
51
装丁買いです。クラシックな黒ぶち丸めがねにダンディーな口髭(高橋幸宏みたい)+猫さん。こんな風に年取りたいなあ、それだけの動機で恥ずかしながら著者のことは全然知りませんでした。本書で大島渚監督、白昼の通り魔の原作者と知ってビックリ!表題作はオフビートな人間ドラマでしょうか。ニセ札を渡す人と、それを使ってお金にかえる人のお話。ニセ札というニセモノを通じて、ほんとのつながりを求めてる。でもニセモノゆえに交わることができない。ちょっとずれたとこがおもしろい。ラストもさわやかで、すきな感じでした。2014/11/14
藤月はな(灯れ松明の火)
23
ミステリー、下品なラブコメ、百合、SF、パニックものと盛りだくさんの「「ゴジラ」の来る夜」は「動物農場」も描かれていた平等とは異なる、権力もなく、本当に平等であるが故の凶暴さを描きながら世界の終末と旧約聖書めいた結末になっている予測のつかなさが凄かったです。強姦魔とその家族や関係者の関係から「恋愛」を描いた「白昼夢の魔」、未必の事件から故意の殺意への転換と結末が印象深い「空間の犯罪」も良かったです。眼鏡なしの世界の壮大さと美しさにハッとさせられた「めがね」で紹介されていた「心眼」は一度、観てみたいです。2013/01/14
Syo
14
ちょっと古すぎたか2023/12/15
ハチアカデミー
14
C+ 武田泰淳はひとをニヤリとさせるのが上手い。腹を抱えて笑うのではなく、「ふっ」とか「へっ」とか。それは泰淳のめがねに秘密があるに違いない。日常も、新聞やテレビのニュースも、小説や映画も、そのめがねを通して見ることで、普通ではない小説に仕立てられる。泰淳のあまり知られていない短編作品を集めた本書では、泰淳めがね効果によるおかしさを堪能することができる。にせ札を使ううちに、本物のお札すらにせさつのにせものとなってしまう表題作を始め、本物と偽物、事実と嘘が転倒する作品も多い。大傑作『富士』の変奏曲集である。2012/09/30
kuukazoo
13
昭和20年代から30年代に書かれた短篇7篇。富士日記を読むまで武田泰淳のことも知らなかったので読みやすそうなものからと思い読んでみたが、ユーモアの陰に予想もしなかった深淵をチラ見してしまった気もする。ホンモノとニセモノの逆転、極限状態での生命の選別、理解不能な他人の行動や心理。作者の視覚で構築された世界の中に「連れてかれる」感がスリリング。表題作のほか「めがね』「ゴジラの来る夜」「空間の犯罪」「白昼の通り魔」「女の部屋」が良かった。2025/01/22
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