内容説明
静謐な空間に時代の不安定な様相をも描出した夭折の画家松本竣介。親しく過ごした著者がその出会いから死まで、さらには没後の竣介絵画の評価と画壇事情を歴史的に記す貴重な証言。
目次
享年三十六歳
「運河風景」
生きている画家
戦時下の一画家の信念
俊介から竣介へ
空襲と本郷洋画研究所
東京大空襲
生涯で一番長い日
絵具がない!
油絵具の秘法
戦争画の眠っている場所
絵の精神
一点だけの版画
国画展の懇親会
第一回美術団体連合展
第十一回自由美術展の初日
思い出の芝生会議
師・阿以田修
自由な精神
鶴岡政男の大福餅
塊の裸婦
最期の微笑み
竣介没後
著者等紹介
中野淳[ナカノジュン]
1925(大正14)年東京生まれ。洋画家。武蔵野美術大学名誉教授。川端画学校に学ぶ太平洋戦争中の43(昭和18)年、新人画会展で松本竣介の絵と出会い、その画室を訪う。戦後は自由美術会員、主体美術創立会員を経て94年、同志と新作家美術会を結成し毎回出品。86年、七〇点の自選回顧展。東京、関西の美術館・画廊・百貨店で個展。日本秀作美術展、戦後日本のレアリズム展に招待出品。57年国際美術展(モスクワ)で受賞。93年小山敬三美術賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ごいんきょ
13
松本竣介の「Y市の橋」。東京国立近代美術館にあり、私の好きな作品の一つです。 その松本竣介を中野淳さんが思い出として綴っています。2024/03/10
ぺんぎん
9
第二次世界大戦開戦から戦後にかけての画家たちの様子が記されている。戦時中、ある少佐による「美術家は贅沢な身分であり、絵の具の配給を禁止してしまおう、展覧会も許可しなければ良い」との発言は、新型コロナ騒動初期にアートは不要不急呼ばわりされていたことを思い起こさせる。そんな全体主義が蔓延る中で、表現の自由を死守しようとし、戦争画を描くことであえて反戦の意志を示した松本竣介という画家が居たことを初めて知った。戦争画は非芸術的との意見を否定し、芸術的な戦争画を描けば良いと言い放った松本竣介こそ真の画家だ。2022/02/01
風が造る景色
3
昭和18年、画学生だった筆者は、偶然立ち寄った銀座の画廊で「運河風景」に出会う。 有名画家たちの戦争画が大きく報道されていた時代。独特な風景画に魅せられ、下落合の松本の家を訪ねることとなる。 その画学生による昭和23年までの5年間の松本の記録だが、語られる二人の青年のこの時代の青春の匂いが、この作品を単なる記録ではなく芸術として価値あるものにしています。 松本竣介は、早世してしまったことで必要以上に悲劇的な目で見られてしまうが、彼の生活も、そして彼の絵も、決して暗いものではなかったことがわかる。2012/09/30
ハチ
2
不勉強のため、著者や登場する画家のほとんどを存じ上げない状態で読み始めました。画家の生きた時代、戦争、戦後、主義、作風を抑揚の抑えた丁寧な記述で記録されてい、作品に興味がを持った。2018/09/10
rabbitrun
1
戦前戦後の多難な時代に数々の抒情的な油彩画を残した早世の画家松本竣介。生前の画家を知る著者の貴重な証言から創作に勤しむ若き画家の姿がありありと伝わってくる。美術館で観たあの絵がどのように描かれたのか垣間見ることができて感慨深い。2017/03/01