出版社内容情報
ふるさとの西伊豆の小さな町は自然も人々の営みも生気を失っていた。私はささやかな想いと志を胸に、かき氷屋を始めた……名嘉睦稔の版画26点収録。
内容説明
ふるさと西伊豆の小さな町は、海も山も人も寂れてしまっていた。実家に帰った私は、ささやかな夢と故郷への想いを胸に、大好きなかき氷の店を始めることにした。大切な人を亡くしたばかりのはじめちゃんと一緒に…。自分らしく生きる道を探す女の子たちの夏。版画家・名嘉睦稔の挿絵26点を収録。
著者等紹介
よしもとばなな[ヨシモトバナナ]
1964年、東京生まれ。詩人・思想家の吉本隆明の次女。日本大学芸術学部文藝学科卒業。87年「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。以後、88年『キッチン』で泉鏡花文学賞、同年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、89年『TUGUMI』で山本周五郎賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞を受賞。海外での評価も高く、イタリアで、93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞「アンダー35」、99年マスケラダルジェント賞の三賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
182
この時期だからこそ、読むべき作品をドンピシャのタイミングで読むことができ、本当に幸せでした。いつもばななさんの作品を読了して、直後に思うことは「本当にやっぱりこの人って天才なんだな」と感じます。いともたやすく、何でもないように書き綴っているかのような文章が素晴らしいのです。人間の持つちょっとダークな部分もサラリと書き上げ、まるっきり何もなかったかのように平和な雰囲気に仕立てる術はもうお見事としか言えません。今作は版画家「名嘉睦稔」さんの挿画もおさめられており、またその挿画が本作をより際立たせています。2017/07/22
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
158
西伊豆の海は澄んでいる。透明な海に入るとすぐ近くを泳ぐ大きな魚きらきら、太陽に反射してきれい。温泉街、花火大会にかき氷。錆びたシャッター、波の音。潜った海から見あげる水面は天空のようこのまま死んでもいいかも、なんて嘘。 思い出が積み重なって思い入れがどんどん深くなって、”昔はよかった”とか言っちゃうんだろうなぁ。それはいいことでもあり悪いことでもあるような。自分がきもちいい基準でいればいいのかな、と思ったり。ばななさんが教えてくれる指標はシンプルなようでいてなかなかどうして難しいのです。2020/07/22
ヴェネツィア
128
ブルース・ベイリーの仲人による、よしもとばななと版画家、名嘉睦稔のコラボレーションで誕生した本。26点の絵は、いずれも版画特有の黒が力強く、またそれらが常に影を意識させるために、海辺の町の日常が淡々と描かれていく小説の背後にも陰翳を与えている。西伊豆の土肥を舞台に物語は展開するが、そこでは寂れていった町への郷愁と強い愛着とが心をこめて語られる。大きな出来事は何も起こらないし、主人公であり物語の語り手であるまりと、はじめちゃんとのひと夏の交流が描かれるだけなのだが、そこにはほのかな輝きがあるようなのだ。2012/10/18
はたっぴ
91
表紙の絵に惹かれて読了。名嘉睦稔さんは『地球交響曲』で知った沖縄の版画家。神話を語り、風の音や鳥の言葉を理解し、自然や動植物からのメッセージを作品で表現する地球人だ。そんな睦稔さんの絵とばななさんの物語がコラボしていたとは知らなかった。西伊豆の海の美しさは体験済みなので物語にも馴染みやすかった。睦稔さんの絵とノスタルジックな西伊豆の風景が溶け合うように、主人公のまりとはじめの友情が緩やかに芽生え、ひと夏をかけて交わっていく。お二人の魂が共鳴して生まれたこの本を読めたことが、今夏の大切な思い出になった。2016/09/04
のっち♬
86
「私はこの夏、海のふたをちゃんと閉めて終わりにすることは絶対にできないかもしれない」都会に疲れたまりがはじめと過ごす西伊豆の日々。わがままで繊細なはじめの新鮮なまなざしが、まりを子供に立ち返らせていく。「生きているだけでいろんなことがありすぎる」毎日が奇跡の連続だ。「大した人生にしようとしなかった人生なんて、私興味を持てない」どこに流されたっていい、そこでいい風に思い出を作り続けよう。すべては闇にともるともしびに過ぎないとしても、私たちは人間ですごい力を持っている。透明感と爽やかさのある静かな感動が残る。2019/06/25