出版社内容情報
虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。
内容説明
虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
157
南京をはじめ各地で非人道行為に次々手を染める軍人をあくまで人間として描き、勝利に傲る銃後の人々まで猛省を訴えた戦中の発禁小説。大量の伏字が当時の言論弾圧を物語っている。事件の忠実な再構築よりも自由な創作や描写の誠実さに重きを置いたことで、戦場における人間の普遍的心境や実態がかえってリアリスティックに汲み取られていると思う。迷わない者、それを羨み繊細さを隠す者、耐え切れず錯乱する者。人間は誰しも統合・順応の忘我に居続けられるものではない。畢竟、相手の命への軽蔑は自分の命への軽蔑として跳ね返ってくるのである。2022/06/18
kinkin
126
当時は支那と呼ばれた中国の戦場が舞台。そこで繰り広げられる常軌を逸した、いや戦争に常軌などあるものか。捕らえた捕虜の首をはね足蹴にして池に放り込む、スパイの女性を裸にしてナイフで刺し殺す、従軍僧と呼ばれる僧侶が左手に数珠をかけ右手でスコップを持ち逃げる兵士の頭をカチ割る描写は鬼気迫る。日本軍兵士も殺される。戦争というのはまさに狂気以外の何物でもない。だがその狂気を体験した人々は風前の灯火。それを語ることも聞くこともできない。当時は四分の一が伏せ字だった、それが読めることはまだ日本は自由なのかもしれない。2021/12/04
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
107
日中戦争を特にあの南京での市街戦を描いた作品であるが評価が難しい本である。作者自らが「この稿は実戦の忠実な記録ではなく、作者はかなり自由な創作を試みたものである」と述べている通り、どこまでが真実で、どこからがフィクションなのかはわからない。かつ、作者が南京入りしたのは事後であり、あくまでも聞き書きによる創作である。しかし、あるがままの戦争の姿を、当時の生身の兵隊達の姿を知ることができるのではないだろうか?★★★★2019/04/15
molysk
83
日中戦争の南京陥落に至るまでを、従軍取材をもとに執筆した、ルポルタージュ的小説。描かれるのは、高邁な軍人精神をもつ人物ばかりではない。戦場という環境は、鋭敏な感受性や自己批判の知的教養をもつ多様な人格を、無感情に殺戮を行う画一化された人格へと作り変えていく。たとえば、従軍僧が躊躇なく、自ら武器を手に取るように。石川は、残虐な戦争を美化することなく、ありのままに淡々と描き出す。本書は四分の一ほどを伏字削除されて昭和十三年に出版されたが、即日販売禁止となり、石川は新聞法違反で有罪判決を受ける。2022/12/28
金吾
50
○兵隊から見た戦争の実相が想像できる本です。日中双方のドロドロした部分が伝わります。また日本陸軍の規律が弛緩している状態や戦場での命の軽さもわかりました。戦中に書かれている本なのでリアリティーを感じます。2022/07/08