内容説明
三蔵法師玄奘の西天取経の遙かな旅は、こんにち「西遊記」という物語を通して、われわれに親しまれている。史実のなかの苦難に満ちた旅の足跡を、文献と写真資料によって克明にたどるとともに、時代を超えたイメージの総体としての玄奘像を探り、フィクション成立の背景をも解明する。
目次
第1章 そのイメージの原型(少年時代;そのかおかたち ほか)
第2章 西天取経(1)―中央アジアの旅(旅のいでたち;国境までの潜行 ほか)
第3章 西天取経(2)―インドの旅(インドの旅のあらまし;仏陀の聖跡にて ほか)
第4章 帰国ののち(太宗と玄奘;『大唐西域記』をめぐる悲劇 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
GEO(ジオ)
3
『西遊記』の研究で知られる中野美代子先生の「史実の玄奘三蔵法師」についての解説。より正確に言うと、史実の三蔵法師から、小説の三蔵法師像が形成されるまでの過程を描き出した本……といった方が近いかもしれない。 当時の唐の情勢はもちろん、実はあまり仏教が流行していなかったインドで、玄奘が外交の才能を開花させていくというのは面白かった。2017/01/18
bittersweet symphony
1
中野美代子さんによる三蔵法師の伝記。本人も認めているところではありますが、仏教とインドについては専門外と言うこともあり記述が薄味なのは残念。そのかわり西域の地理・文化・社会(古代の言語分布はじめ)についてはかなり詳細な分析が試みられていて面白いところです(インドについても同レベルの内容があるとよかったとは思います)。帰国後の太宗・高宗との駆け引きの部分などは、「西遊記」経由の玄奘のイメージからは想像できない老獪さが感じられて新鮮な印象がありました。最期のエピソードも出来すぎなくらいですね。2009/05/28
韓信
1
『西遊記』研究でおなじみの著者による玄奘の評伝だが、純粋な評伝というよりは、史実の玄奘から後世の「三蔵法師」イメージの成立までの隙間を埋めるような内容(書名にも反映されている)。史実の玄奘の評伝としては仏教史上の評価が欠けているため不完全だが、『西遊記』は好きだけど仏教に関する知識・興味の薄いビギナーには逆にとっつきやすいし、著者お得意の『西遊記』の仕掛け解説や図像学的アプローチも全編に見られ、筆致は筋斗雲のように融通無碍。個人的には桑山正進の「機密情報として扱われた『西域記』の改竄説」が一番面白かった。2013/06/29
いちはじめ
0
西遊記の主人公……というか脇役、三蔵法師の実像を描く。数々の西遊記研究や翻訳でお馴染みの中野美代子らしく、面白い1999/06/17