内容説明
枯枝に鳥のとまりけり秋の暮―芭蕉の句の鳥は単数か複数か、その曖昧性にひそむ日本の美学。無個性な日本の肖像画の中で一休像だけがなぜ生きているのか。日清戦争の及ぼした文化的影響など、鋭い分析による独創的日本論。
目次
日本人の美意識
平安時代の女性的感性
日本文学における個性と型
日本演劇における写実性と非現実性
日清戦争と日本文化
一休頂相
花子
アーサー・ウェイレー
一専門家の告白
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
万葉語り
47
ドナルド・キーン氏が亡くなった翌日、札幌で購入しながら組積読にしてあったものを読了した。日本人も知らない美しい古典を、海外の人々にも日本人にも教えてくれた功績は素晴らしい。なぜ日本を研究素材に選んだのか?好きだからという、シンプルな生き方が素晴らしいと思う。2019-1472019/10/26
いちねんせい
24
読み終わって、ため息。なんちゅう一冊。こんな本に出会えたわたしは大変ラッキー。最初、読み返さねばというところに付箋を貼っていたら、最後まで付箋だらけになりそうでやめた。何度も読み返す本になるだろう!2016/03/29
A.T
20
芭蕉「かれ枝に烏のとまりけり秋の暮」…枝に留まる烏は何羽だろうか、から始まり、「秋の暮」は晩秋か日暮れか…と思いを巡らし、水墨画のモノクロームの世界が浮かび上がる面白さ。俳句の簡潔さゆえの余情、想像上の風景と一体となることで読み手を異空間へ連れ去る。水墨画、文人画のとのコラボレーションにより、さらに読む動作なしでも異空間スイッチが入るオートマチズムさが素晴らしい。2023/04/09
奏市
17
標題のほか日清戦争の日本文化への影響、禅僧一休の肖像画についての評論等から成る。日本の古典文学にはほとんど興味なく過ごしてきたが面白そうと初めて思えた気がする。自分がいかに哀れかを嘆き、恋仇の不幸を喜び毒を吐きまくる自己中主人公の『蜻蛉日記』や眉毛伸ばし放題で他人からどう思われようと気にしない変人娘の『虫めづる姫君』など人間臭い作品に興味を覚えた。欠けた月、花が蕾のままであること等の「初め」と「終り」を愛でる日本古来の価値観は、完成された絵を究めるのではない今日の世界の現代美術の志向と合致するとの事。2021/06/15
るい
7
ドナルド・キーンの美意識、感性、分析力にひたすら感銘を受けながら、読み進めた一冊。日本の美意識を、外から見てもらうからこそ、より鮮明に理解できる。平安時代前後の美意識が、やはり好きだ。戦争の時代の文化の隆起は、日本古来の美意識の破壊と西洋的美意識の融合の過程に感じられる。この味わいに浸ってしまうわたしもまた日本人なのだと思わされた。2017/08/05