内容説明
安南の名門阮家に迎えられたモイの乙女。愛蔵の白磁盒子を託した克欽の愛もむなしく、さ迷う二人の三魂九魄。こなごなに砕け血に染まった白磁が、魅入られたひとの思いを断つ、表題作他六篇。独自の世界を築きあげた詩情溢れる異国の香りと厳選されたことばが織りなす珠玉の短篇小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
エドワード
13
私たち日本人は、東洋を、西洋のレンズを通して見ている。中国、ベトナム、インド、イラン、アラビア。夢と現のあわいに遊ぶ、不思議な物語。モノクロームの映画の味わい。<童女の尻を撫でる>がごとき、陶器への偏愛、それはやがて、陶器を粉々に砕かずにはおれない。神秘的な東洋の言葉-イスラム的韜晦。大人になった哲学少女が見た幻-これは存分にホラー映画である。河内平野を舞台にした二編は、桃源郷に遊び、睡蓮の咲く池に人魂を浮かべる。フェティシズムとサスペンスに満ちた珠玉の短編群。このような感覚を、まさに異国情緒と呼ぶのだ。2016/06/11
H masa
2
磁器、焼き物、着物、宝石、生け花など、何らかの芸術品がモチーフとして出てくる短篇集。亡妻への妄執ともいえる安南貴族末裔の思いを描いた表題作や、河内平野を舞台に、山奥のふしぎな屋敷に迷い込んだ若妻の話「桃源」、何十年も前からの因縁を抱えながら、墓守と華道師匠というそれぞれの立場で生きている二人の老女を描いた「睡蓮」などが印象に残った。2019/10/17