内容説明
昭和十年八月十二日、一人の軍人が執務室で斬殺された。陸軍軍務局長永田鉄山。中堅幕僚時代、陸軍は組織として政治を動かすべきだとして「一夕会」を結成した人物である。彼の抱いた政策構想は、同志であった石原莞爾、武藤章、田中新一らにどう受け継がれ、分岐していったのか。満蒙の領有をめぐる中ソとの軋轢、南洋の資源をめぐる英米との対立、また緊張する欧州情勢を背景に、満州事変から敗戦まで昭和陸軍の興亡を描く。
目次
プロローグ 満州事変―昭和陸軍の台頭
第1章 政党政治下の陸軍―宇垣軍政と一夕会の形成
第2章 満州事変から五・一五事件へ―陸軍における権力転換と政党政治の終焉
第3章 昭和陸軍の構想―永田鉄山
第4章 陸軍派閥抗争―皇道派と統制派
第5章 二・二六事件前後の陸軍と大陸政策の相克―石原莞爾戦争指導課長の時代
第6章 日中戦争の展開と東亜新秩序
第7章 欧州大戦と日独伊三国同盟―武藤章陸軍省軍務局長の登場
第8章 漸進的南進方針と独ソ戦の衝撃―田中新一参謀本部作戦部長の就任
第9章 日米交渉と対米開戦
エピローグ 太平洋戦争―落日の昭和陸軍
著者等紹介
川田稔[カワダミノル]
1947年(昭和22年)、高知県に生まれる。1978年、名古屋大学大学院法学研究科博士課程修了。現在、名古屋大学大学院環境学研究科教授。法学博士。専攻は政治史。政治思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鯖
19
満州事変以降、日本を牛耳った陸軍の動きを追う本。永田鉄山の「総力戦国家の実現」という構想を受け継いだ武藤章と田中新一。満州事変において、戦局の拡大を引き起こした武藤は更なる拡大は防ごうとしたものの、対英米戦は不可避とする田中に押し切られた。極端に走るエリート軍人たちを抑えぬ軍上層部に政府。結局、日本の自主独立を実現するための陸軍の存在そのものが、内部対立を通して国の独立を奪っていったのだなあ。2019/10/06
筑紫の國造
16
読み終わってみれば、「昭和陸軍」とは永田鉄山とその戦略構想をめぐる動きだったのでは、との思いが強くなる。陸軍屈指の逸材と評される永田の構想を一言で言えば、「総力戦国家をつくる」ということになろう。永田の構想は武藤章らに受け継がれ、その後の日本を動かす。しかし、同じく永田の影響を受けた田中新一と対立し、やがて破局(大東亜戦争)へ向かう。永田がいれば二人の衝突は避けられたのかもしれないが、一方で永田構想の限界も示唆している。良書に違いないが、史料の引用が少ないのと都度の出典が明記されていないのが残念。2017/12/28
叛逆のくりぃむ
14
本書では、永田構想の全貌とその変遷について述べている。『石原莞爾の世界戦略構想』(祥伝社新書、2016)と重複する箇所も見られるが、石原と対立した武藤章や田中新一の戦略構想にも触れている。対米戦に関しては、一般には開戦派と見られている東条英機ですらも消極的であったという事実に驚いている。2016/09/19
月をみるもの
13
なぜ対米戦争を始めてしまったのか、、、を知りたくて、これまでに政権レベルの内幕を描いた本はそれなりに読んできた。それらの中では、もちろん軍の動きも描かれてはいるのだが、あくまで政治家目線なので軍の持つ独自のロジックが掴みにくい。本書を読んで始めて「石原はなぜ失脚したのか?、永田の衣鉢をともに継いだはずの武藤と田中の対立の理由、イギリスとだけ戦争してアメリカとは戦わない、というオプションはなかったのか?」といった、かねてからの疑問の多くが氷解した。2018/03/27
いぅえもん
13
今年の終戦の日へ向けての一冊。どうして陸軍が対米戦争にまで踏み切ったのか?が、永山・石原・武藤・田中新一という一夕会メンバーの陸軍中心人物達の時系列で書かれていてとても解りやすい。そして、結局だれも日米開戦を望んではいなかったという事実に変わりは無く、では、何故!?というところに戻ってしまう。今年は終戦70年ということで終戦の日が注目されているが、どうして始めてしまったのか?に当時から現在までも続く日本という国と国民の問題点があるのだとはあらためて思う。2015/08/14