出版社内容情報
左右両翼、メディア、韓国などから批判を浴び続けた「慰安婦」への補償。その中心を担った「基金」の”失敗”は何を語るのか――
内容説明
一九九〇年代以降「慰安婦」問題は、「歴史認識」の最大の争点となっている。政府は軍の関与を認め謝罪。市民と政府により被害者への償いを行う「アジア女性基金」がつくられた。だが、国家関与を否定する右派、国家賠償を要求する左派、メディアによる問題の政治化で償いは難航した。本書は、この問題に深く関わった当事者による「失敗」と「達成」の記録であり、その過程から考える新たな歴史構築の試みである。
目次
第1章 「慰安婦」問題の衝撃
第2章 アジア女性基金とメディア、NGOの反応
第3章 被害者の視点、被害者の利益
第4章 アジア女性基金と日本政府の問題性
第5章 償いとは何か―「失敗」を糧として
終章 二一世紀の日本社会のあり方
著者等紹介
大沼保昭[オオヌマヤスアキ]
1946年(昭和21年)山形県生まれ。70年東京大学法学部卒。91年より東京大学大学院法学政治学研究科教授(国際法専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
32
タイトルには「慰安婦問題」とあるが、中身はもっぱら著者が関わった「アジア女性基金」の取り組みと挫折についての話だった。慰安婦問題の発端となった朝日記事の真贋および強制性云々には触れていない。表題を変えた方がいいと思うが、07年に書かれた本なのでまぁ仕方ない。今の争点とは少し外れるかな。NGOやメディアが「責任を問われる政治的主体」としての自覚に欠けるという指摘は鋭く、また戦争責任のとり方を考える上でもなかなか有益な一冊だったと思う。もちろん、著者のもつ「偏り」を意識して読む必要もある。あとで書評かきます。2014/09/08
活字スキー
19
12年間に渡って「女性のためのアジア平和国民基金」の償い事業に奔走した著者。慰安婦問題は、政府同士が一定の手続きさえこなせば片付くような単純な話ではない。日韓共に、先の大戦で多大な被害を被った女性達に対して、どれ程誠実な対応をしてきただろうか。彼女達が、現実として何の救いも与えられずに死ぬまで政治カードとして利用され続ける事などあってはならない。……だが、両政府の不誠実な対応の下でここまで国民感情をこじらせてしまっては、最早どうにもならないのではないかとも思う。そこに希望はあるのか?2015/07/26
小鈴
18
【英訳希望】07年出版のこの本を19年に読む価値は大きい。安倍首相が「狭義の意味で慰安婦への強制は無かった」発言、橋下元知事のコメントなどこの12年間の動きは「アジア女性基金」が行った償いを逆巻きにするものだ。私達はまずアジア女性基金より退行してはいけない。そのためには、この基金の償い活動を知らなければいけない。私を含めた多くの人は基金の存在をなんとはく知っていても、その具体的な活動家を知らない。道義的責任を認めた日本は、市民と一体となって基金を作り、首相が署名した手紙を一人一人に手渡し、償い金を払った。2019/06/23
おさむ
17
「失敗」とされたアジア女性基金の活動に関わった国際法学者による問題の総括書。90年代の動向が細かく書かれており、視点も多角的な良書。被害者の感情、外交、ナショナリズム等が複雑に絡み合う難題ということを改めて実感します。21世紀でも解決はむずかしいのかもしれません。2014/08/27
Masakazu Fujino
8
「女性のためのアジア平和国民基金」の設立とその役割のために努力された著者の、思いのこもった著作。問題の本質と何が大切にされなければならないのかが、著者の血を吐くような思いとともに伝わってくる。2020/06/22