出版社内容情報
「四島一括返還」と叫び続けることで何が得られるのか―半世紀以上に及ぶ国境問題に終止符を打つために必要な政治的妥協を具体的に検討する
内容説明
「北方領土問題」は、日本とソ連の戦後処理をめぐる交渉のプロセスのなかで生まれ、1956年の日ソ交渉においても、これを解決することができず、平和条約の締結に至らなかった。以来五〇年、事態が進展しないなか、中国とロシアの間で、同じく第二次世界大戦に由来する国境問題が解決した。本書は、この係争地を互いに「分け合う」という政治的妥協に至る道筋を検討し、日ロ間への具体的な応用を探るものである。
目次
1 中ソ国境問題はいかに可決されたか(暗闇のなかの模索;相互に受け入れ可能な妥協;中国と中央アジア―中ロ方式の試金石;十三年目の最終決着)
2 日ロ国境問題をいかに動かすか(中ロ最終決着の衝撃;中ロのやり方をどう適用するか;四島返還論再考;未来への決断)
著者等紹介
岩下明裕[イワシタアキヒロ]
1962年(昭和37年)熊本県に生まれる。九州大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。九州大学法学部助手、山口県立大学国際文化学部助教授、北海道大学スラブ研究センター助教授を経て、同センター教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mitei
206
北方領土について様々な考察をした1冊。やはり四島一括返還は難しいように感じる。実際の交渉はアメリカに左右されないようにするなら自国で国防を充実せざるを得ないのではと思う。個人的にはいつかはフィフティ・フィフティで終わる印象。2015/04/27
Saku
19
北海道出身者としては、子供の頃から「返せ!北方領土」の看板やテレビCMで身近な問題だった。しかし、なかなか進展しない交渉にあきらめムードすら感じられる様になってきている。日本がこれまでの様に四島をまとめて返せと主張し続けたとしても、ロシアは絶対に返してはくれないだろう。平和条約を条件に歯舞、色丹の二島は戻って来るがそれで問題解決とは国民感情が許すまい。では如何にするべきかというのが、中露の領土問題解決の手法を元に提案される。ここに来て交渉が進みそうな気配があるが、どういう決着が良いのか考えて見たい。2016/11/11
樋口佳之
17
千島の先住民がアイヌ民族であることは議論の余地がない。要するに、ロシアも日本もいわば、帝国主義へと向かう時代背景の下、自国の国のかたちを整える過程 で、島の取り合いをしたのであり 2017/02/28
かんがく
13
タイトルは詐欺では?「北方領土問題」と言いながら、前半は著者の専門である中露の国境問題について。ただ、すでに解決に成功している領土問題から北方領土について考えるアプローチはとても面白かった。2019/07/26
coolflat
13
1956年、共同宣言を発表する方式で日ソは国交回復を成し遂げた。だが当初目指していた平和条約ではなく共同宣言というやり方で国交回復がなされたのは、日本の国のかたちをどう定めるか、日本とソ連の国境線をどこで引くのか、という論点で双方が折り合う事ができなかったからだ。領土問題だけが障害となったが故に、日ソの交渉はこれ以後、この点のみに集中される。共同宣言では平和条約締結後、歯舞・色丹を返還する約束だったが、現実には、フルシチョフは二島引き渡しの提案を後退させ、1961年には「領土問題は解決済み」の声明を出す。2016/10/07