内容説明
蘆溝橋事件を引金に日中の戦いは軍部主導のかたちで、ついには泥沼の太平洋戦争に突入していった。しかし、すべての日本人が武力行使の拡大を望み戦火を座視していたわけではなかつた。戦争はあくまで和平工作の最終手段として考え、たえず平和的解決、そのための交渉の努力が模索されていた事実もあった。もし平和的、自主的解決が実現していたなら―歴史におけるイフのタブー視域から、日中の動き、戦争の経過を見据える。
目次
1 満州事変とは何であったのか
2 日中戦争への道
3 日中戦争の拡大は防げなかったか
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
19
元来はアジア経済の専門家が、第2の人生のライフワークとして書き上げたもので、戦争そのものより戦争に至る過程と、それを巡る外交交渉、政治家や外交官の判断、そして中国サイドの考えなどを絡めながら、なぜ早期に終結できなかったかを中心に記述。背景にある日本の中国蔑視と、中国ナショナリズムの覚醒について、識者の論など様々な事例から論証している。蔣介石の姿勢については、かなり高評価な気はするが、大変興味深かった。通州事件の扱いも妥当で、全体に抑制が効きつつ、戦中派らしい、戦争を防げたらという思いが伝わる良書だ。2018/02/03
印度 洋一郎
7
満州事変から近衛文麿の「国民政府を相手にせず」宣言で日中戦争が全面戦争へと突入するまでの日中間の経過を、軍部、政府、言論界などの動きを追いながら検証。やはり軍部の独走と独善に責任が大きいが、外相広田弘毅は無気力、首相近衛は態度が煮え切らない、言論界も中国を蔑視する意見も多く、各界に紛争拡大を望まない勢力はいたが、結局大きな力にはならなかった。結局、満州や華北の権益を手放す事は世論も許さず、その反発を抑え切る自信はどこにも無かった。現地がドンドン独走し、必ずしも望まない紛争にズルズルとはまっていく構図だ。2016/12/10
梟をめぐる読書
4
「歴史にifはない」というテーゼは歴史学の基本だが、しかしそれはまた「そうなる以外にはありえなかった」として歴史に対する態度を硬化させてしまう。本書は基本的な歴史解説書でありながら、満州事変→日中戦争→日米開戦という「ひとつながりの悪夢」をいかに回避し得たか、という歴史の「if」への考察と反省を忘れない。勿論「後の歴史にとって何が最善であったか」は計り知れないものだが、例えば今日の311を巡る政府の決定(非決定)一つとっても「ifはなかった」という態度がもはや効力を持ち得ないことは明らかだろう。2012/03/20
T F
1
ロシアのウクライナ侵攻がリアルタイムに進むなかで、日本の中国侵略の過程もよりリアルに感じられる。ロシアと違い独裁的な体制ではなかったため、意思決定には多数の人が関わっていたが、和平のチャンスはいくつかありつつも、ことごとく判断を誤るのはなぜなのか。2022/06/25
おい
1
1つの論であるが、日中戦争および太平洋戦争のターニングポイントやキーマンが分かる。どの辺りから戦争の泥沼にはまったのか、嫌日のルーツを考える資料の1つになる。 ★★★2015/08/17