感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
13
信長に比べ新書レベルでの評伝が少ない秀吉。30年前の著作であり、今は新しい事実がでているかもしれないが、なにしろ公的記録にその名が出たのが20代後半ということで、潤色・創作の多い太閤伝の類を丹念に読み解きながら彼の幼少時を推論していくのは、歴史家としては大変だけど面白いことなのかもしれない。一方朝鮮出兵あたりから明るく人好きのする秀吉が変わっていったこと、そしてその出兵を明治期以降政府がもてはやし、日清・日露戦争~日韓併合期にブームにまでなっていたことを批判的に取り上げている。これも歴史家の矜持であろう。2015/09/19
nobody
9
コーランを題材とする日本語の本がアラビア語の原文引用ばかりだったら誰しも著者の頭を心配するところだが、日本史の本を古典引用ばかりにしても誰も文句はいわぬ。さらに史料の比較考量など「研究過程」に筆を費やすという読者無視を行って恥じないので、歴史学者は自ら存立基盤を掘り崩すという奇特ぶりを発揮していく。かくて「どうだったか判らない」しかいわぬ無能歴史学者に代わって真理究明という本来なら学者の仕事を担ってくれる司馬遼太郎の独壇場となる。司馬史観「問題」とは司馬の個性に起因するのではなく、歴史ものの伝承にまつわる2023/02/02
kenitirokikuti
8
図書館にて。1985年の中公新書である。著者経歴は、2007年の段階で静岡大学教育学部教授。「Ⅴ.天下人秀吉の実像」の末尾には、太閤検地に関わるところで、〈 松好貞夫氏のいう「秀吉の国家統一の経過は、そのまま近世封建農奴の生い立ちの記なのである」(『太閤と百姓』)という指摘を、もう一度かみしめる必要があるのではなかろうか。〉(p.151)▲享保7年に幕府の出版取締令。権現様や御当家について木版出版を禁止している。1804年、「天正以来の武者に姓氏をあらはし」もダメに。1802年完結の『絵本太閤記』が絶版に2021/06/12
hr
1
小和田哲男若き日の情熱的な本を古書で手に入れて読んでみた。28歳までの秀吉の検証がとても丁寧で、面白かった。また、近代日本の朝鮮侵略と絡めて秀吉の朝鮮侵略を捉える視点が、この本が出版された1985年当時に提示されていたことに感銘を受けた。事実を探そうとする態度そのものが「歴史」だが、何かを説明するために「歴史」が使われ始めると、悪いことしかない。それを教えてくれる本。2021/04/18
dogu
1
秀吉の不明確な前半生から、取り立てられて頭角を現し、天下人となり狂気の朝鮮侵略の最中に没するまでを史料で追った。注目すべきは太閤伝説の7章、秀吉の朝鮮出兵が明治政府の朝鮮侵略の偉大な先駆者とされたこと、秀吉がルソンに送った通貢を促す書状が海外雄飛の根拠とされ太平洋戦争時のマニラ攻略戦戦勝祭でプロパガンダとして使われたことなど。2021/04/08