感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カブトムシ
21
私は高校時代に帰宅部でした。その日帰宅すると、いつものように祖母がいました。テレビをつけると、三島事件がリアルタイムに報じられていました。その時によくテレビに出ていたのが、この著者でした。その時のコメントが窺われます。「文学的には芸術至上主義的、虚無的色彩を深め、個我を超越し、志だけが再生輪廻する東洋的、仏教的な畢生の長編四部作『豊饒の海』を昭和45年(1970年)11月25日書き上げます。そしてその朝、彼は楯の会同志と共に自衛隊に赴き、天皇の軍隊として決起をうながす演説をなし、壮絶な自刃を遂げました。」
ネムル
19
明治から大江あたりまでの文学史。国語のお勉強として学んだ漠然と点の知識が、ある程度線として繋がった。昨年は一年かけて日本文学フェアをやったものだが、もっと早く読んでおけばよかった。70年の著作なので、ここで描かれている文学史がどのように更新されているかは知らないが、江戸戯作文学との繋がり、『浮雲』の新しさは言文一致でなく作者と主人公・小説の構成が結ばれていることなど、多くの発見を得られた。また、繰り返される日本の西洋文学コンプレックスが特に興味深い。2017/01/21
nobody
13
元素記号を説明しない化学入門書はないが、文学専門用語を解説せず文学史を書くのは奥野健男である。奥野が独り善がりの有り体にいえば出鱈目なのは相馬正一「太宰治とコミュニズム」の綿密な検証によりとっくに証明されているから要警戒の姿勢で臨む。本書はあくまで奥野の主観である。奥野によれば〈引かれ者の小唄性〉は文学の本質になるが、森鷗外と村上龍が怒るだろう。文芸評論そのものが無より妄想を生じさせそれを展開させるものだから、果たして“文学史”というものの有無も時間の存在と同様に怪しい。あるのはせいぜい作家間の愛読・影響2022/01/11
ともすけ
7
課題本だったので購入。坪内から純粋戦後派あたりまで書かれている。この手の本で新書でこれほど簡潔に書かれている本は読んだことがなかった。個々の作家についての言及は少ないのだが、まさに「文学の歴史」を網羅した本だといえるだろう。ドナルド・キーンや加藤周一が長くて読むのが大変という人はまずこちらを読んでみると明治からの約100年の文学の歴史を俯瞰できるのではないだろうか。個人的に興味を持ったのは、新感覚派と戦後派の作家。戦後派は特に読んでいる作家が少なかったのでこれから読んでみたいと思った。2015/12/02
光心
6
幕末から現代までの日本文学氏を流れで俯瞰出来、これは良書であることに疑いの余地はない。この本を読んだことで当時の文豪たちが何を目指して、何と戦って、どういう経緯であのような物語群が生まれたのかがわかって非常に面白かった。日本文学については造形を深めていこうと思っているのでまずこの本で概要を掴めたのは大きいと思う。後は個別に作品を読んで実際にどういう物語なのかを肌で感じる他ない。読み終わるのに2週間くらいかかったけど、これは読んでおいて損はないだろう。2018/01/16