出版社内容情報
大人だって道に迷うことあるよ――。
離婚を機に実家へ戻ったシングルマザーの詩織は、両親や友人たちとゆるやかに繋がりながら、七歳になる息子・翔との日々を積み上げていく(『可及的に、すみやかに』)。引きこもりの息子・蒼汰を案ずる幸子は、些細なきっかけから万引きに溺れていく。罪を重ねていく幸子を待つものとは(「掌中」)。ままならぬ日々を、それでも進むひとたちへ。純文学界注目の書き手が母と子を描く中編二編。
内容説明
大人だって道に迷う時あるよ―。離婚を機に実家へ戻った詩織。彼女と息子・翔を支えるのは、折り合いの悪い母、寡黙な父、そして元夫と付き合い始めた親友だった。『あくてえ』で注目の著者、初の連作二篇!
著者等紹介
山下紘加[ヤマシタヒロカ]
1994年、東京都生まれ。2015年「ドール」で文藝賞を受賞しデビュー。22年「あくてえ」で第167回芥川賞候補に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ででんでん
65
2篇とも苦しい。「掌中」の幸子が本当に手にしたいものは、スーパーの商品でもアクセサリーでも着物でもないのだろうが…。大きくなるばかりの空洞を、何かで満たし続けずにはいられない。誰もが少しは似たようなことをやっている。得られないものを、別の何かで辻褄を合わせて生きている。作品の最後が苦しい。表題作も、「掌中」とは全く違うように見えて、根っこの部分はつながっているようにさえ思える閉塞感が苦しい。それでも、そこに自分の中にもある何かの欠片を見るような気がして読み終えた。2024/11/26
もぐたん
58
苦しみが滲み出る2話収録。1話目は、引きこもりの息子と同居する母親が主人公。その苦労には同情するが、彼女の行動には嫌悪感しかなかった。丁寧な状況描写が狂気と寂しさを浮かび上がらせる。表題作は、実家で暮らすシングルマザーのイライラ、子育ての不安が緻密に描かれていた。過去と未来への視点を彷徨いながら、主人公が手にしたほんの少しの強さが煌めく。2篇ともじわっと心に迫ってくる、好みの一冊。★★★★☆2024/11/18
konoha
54
読み進めるうちにどんどん引き込まれた。作者のクールで俯瞰した視点、細やかで瑞々しい言葉の数々に圧倒される。映像が浮かぶようにリアルな家族の姿がある。「掌中」は引きこもりの息子を持つ主婦が万引きを続けてしまう。結末が気になり、怖くても読むのをやめられなかった。表題作は掌中に出てきたシングルマザーの詩織が主人公。愛らしく憎たらしい子供、楽しく残酷な女友達、面倒な実家の両親を上手く表現していた。不思議な時間の流れ方も面白い。続いていく生活の空虚さも、その先にあるものも感じさせるラストがいい。2024/10/10
sayuri
41
「掌中」「可及的に、すみやかに」二話収録。以前読んだ『エラー』『あくてえ』で強烈なインパクトを残してくれた山下紘加さん。今回も読ませる。表題作もいいが一話目の「掌中」が凄い。主人公は引きこもりの息子を持つ主婦の幸子。魔が差したなんて言葉では形容出来ない程、万引きに溺れていく姿に恐怖すら覚える。人生に絶対はなく、自分が理想とする未来と現実とのギャップに苦しむ人は数限りなくいるだろう。こんなはずじゃなかった…、彼女の心で荒れ狂う感情の波が伝染して来て胸が苦しい。掌中に収めたかったのはきっと別の物だったはずだ。2024/10/04
momogaga
39
時間がかかりました。いつも以上に。「可及的に、すみやかに」この題名は…どういう意図でつけたのかをずっと考えながら読了してしまいました。シングルマザーの心情が伝わってくる現代のお話でした。2025/03/14