出版社内容情報
今や看護師は、社会に欠かせない職業である。所定の学校で専門知識や技能を身につけ、国家試験に受かってはじめて就くことのできる専門職であり、人の健康や命を守る尊い職業として、広く認知されている。しかしかつては、「カネのために汚い仕事も厭わず、命まで差し出す賤業」と見なされていた。
家老の娘に生まれながら、この「賤業」につき、生涯をかけて「看護婦」の制度化と技能の向上に努めたのが、大関和(ちか)である。和は離婚して二人の子を育てる母親でもあった。和とともに看護婦となり、彼女を支え続けた鈴木雅もまた、二人の子を持つ「寡婦」であった。
これは近代日本において、看護婦という職業の礎を築いた二人のシングルマザーの物語である。
内容説明
看病婦が「賎業」とされていた時代―女性の経済的自立を目指し、職業看護婦の道を切り拓いた女性たちがいた。
目次
第1章 故郷黒羽
第2章 鹿鳴館
第3章 桜井看護学校
第4章 医科大学附属第一医院
第5章 越後高田「知命堂病院」
第6章 東京看護婦会
第7章 大関看護婦会
著者等紹介
田中ひかる[タナカヒカル]
1970年東京都生まれ。学習院大学法学部卒業。専修大学大学院文学研究科修士課程にて歴史学を、横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程にて社会学を専攻。博士(学術)。女性に関するテーマを中心に、執筆・講演活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
107
前作の「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」と同じくらい胸が熱くなる一冊だった。賤業とされた看護婦の地位を高め、トレインド・ナースの先駆けとなった大関和の物語。近年、ナイチンゲールが、柔和な天使ではなく、自分にも周囲にも厳しい完璧主義者だったとする評価に変わっているが、和は、正に「明治のナイチンゲール」である。不幸な結婚・離縁を経て植村正久に出会い、周囲との軋轢を怖れずに、キリスト教の愛と献身の精神に支えられた看護婦のあり方を貫いた和の人生を、心から尊敬する。後藤新平、相馬愛蔵など、多彩な登場人物も魅力。2023/12/05
えちぜんや よーた
68
2026年前期朝ドラ「風、薫る」の原案となった本。主人公・大関和はあと50年早く生まれていれば、黒羽藩の国家老の娘として育てられて江戸時代での勝ち組だったはずなのに。実は「風、薫る」の前作となる「ばけばけ」のモデルとなる小泉セツも松江藩で四百石取り上級武士の家の出身。NHKの朝ドラは2期連続で「時代ガチャの負け組」をヒロインにするらしい。NHKは朝ドラを平成・令和の「現代もの」をするよりも、幕末・明治・大正の「時代劇もの」の方がウケると踏んでるのかもしれません。2025/02/26
かさお
26
次の次の次の朝ドラの主人公のモデルらしい大関和の物語。明治時代、女性には人権が無く、看護婦も賎業とされていた。和と雅、同じ目的を持つ女性2人を軸にした実話。女性が1人でも生きていけるよう「職業」として「看護婦」を残した功績を持つ。だが正直私は主人公の和より雅の方にシンクロした。それは「滅私奉公」「自己犠牲」だけでは看護婦はいつまで経っても立場の低い薄給で使い捨てになるだけだと、組織を作り、一歩下がった立場で闘っていたからだ。和のような「正義」は自己陶酔と紙一重だとも感じ、後半は雅の事ばかり考えていた。2025/03/12
まる子
22
家老の娘だった大関和(ちか)。約20才も離れた夫と離縁し、子どもたちを養うために働いた。嫁田で約束したあの娘たちは…。様々な人との出会いから看護婦に。明治の頃、看病婦は「汚い」賤業だった。女性が自立できるようにと看護婦の道を切り拓いていく。その道は平坦ではない。自分の子供と離れて暮らし、廃娼に奔り、クリスチャンとして生き、現在の看護師に繋がる。和をはじめ、初代トレンド・ナースたちがナイチンゲールへの志しを育てたからこそ、現在の医療に必要な看護師たちがいる。初代(?)女性医師の荻野吟子も。2023/07/02
uniemo
19
最初に本格的に看護学を学んだ看護師の一人である大関和さんは本書で初めて知りました。クリスチャンとしての考えにも基づき「看護婦」という仕事を女性が賃金を得られるための専門職という位置づけと自己犠牲の奉仕という部分との融和に悩んだ姿が印象的でした。ただ一番衝撃的なのは、和の姑がかわいがっているかにみえた、舅が妾に産ませた娘が遊郭に売られてしまうのに平然としていた場面でした。そのことで和は廃娼運動に興味をよせ一生吉原の遊女に心をよせることになるのですが、100年以上前とはいえ女性の地位の低さが悲しい話でした。2023/08/25