内容説明
日本には海洋文学が存在しないと言われるが、それは違っている。例えば―寛政五(一七九三)年、遭難しロシア領に漂着した若宮丸の場合。辛苦の十年の後、津太夫ら四人の水主はロシア船に乗って、日本人初の世界一周の果て故国に帰還。その四人から聴取した記録が『環海異聞』である。こうした漂流記こそが日本独自の海洋文学であり魅力的なドラマの宝庫なのだ。
目次
第1章 海洋文学
第2章 「若宮丸」の漂流
第3章 ペテルブルグ
第4章 世界一周
第5章 長崎
第6章 帰郷
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927(昭和2)年東京生まれ。作家。著書に『ふぉん・しいほるとの娘』(吉川英治文学賞)、『破獄』(読売文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『天狗争乱』(大仏次郎賞)など
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感想・レビュー
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ゆいまある
125
ノンフィクション好きにはたまらん。太平洋には北向きの潮流があり、古くは江戸時代から、何かの弾みで遭難して果てはアリューシャン列島に着いてしまった記録が残されている。大抵はその前に死ぬか殺される。そんな漂流記に取り憑かれた吉村昭による、1793年からの若宮丸の記録。ロシア政府の思惑もあり、波乱万丈の10数年の歳月をかけて数人が日本に帰り着くが、幕府の鎖国政策やキリスト教弾圧により翻弄され精神を病む。彼らはまた帰国に際し初めて世界一周をした日本人となる。ワクワクが止まらない1冊。いつか船の上で読み返したい。2021/11/06
金吾
45
○若宮丸の漂流から帰国までを書いてます。ロシアとの接点の部分は大変興味深い内容であり、国益の追求の部分はありながらもイメージより人道的に感じました。時代からしてしょうがないのでしょうが日本の役人の小役人ぷりは民族性かなと思わさせられます。2022/10/05
つちのこ
41
漂流記は日本独自の海洋文学である…なるほど、そんな見方もあるのか。奥州石巻の「若宮丸」の漂流は大黒屋光太夫の神昌丸漂流とは比較にならないほどの冒険譚であった。これは驚き。水主の津太夫らは日本人で初めて世界一周をした人々であり、キリシタン禁制、鎖国の時代ではなかったら、彼らの体験や知識は日本の国際化に大いに役立ったはずである。著者の『大黒屋光太夫』や井上靖の『おろしや国酔夢譚』で知った江戸時代の漂流記だが、この事件についても小説化して欲しかった。きっとスケールの大きな作品に仕上がったと思うが、それも叶わず。2024/06/06
たぬ
40
☆4.5 私の初読み漂流記はロビンソン・クルーソーだったか十五少年漂流記だったか。はたまたガリバー旅行記だったか。漂流記って何が起きるかわからないドキドキといきなり死が訪れても何ら不思議ではないハラハラがたまらないのよね。本書の中で軽く触れられている漂着した鳥島で10年以上サバイバルした話や大黒屋光太夫の話はものすごく面白かったもの。100頁ちょいを割いて若宮丸の話がい書かれているけど読み応えは言うまでもなく花丸よ。2023/06/29
tomi
39
(再読)多くの漂流小説を書いた著者が、「大黒屋光太夫」の「神昌丸」に遅れてロシア領の島に漂着した「若宮丸」の乗組員たちの記録を基に描いたノンフィクション。帰国を切望する者と厚遇を受けて現地に留まる者との対立など人間ドラマも面白く、小説として書いたものも読みたかったと思う。2017/08/19