出版社内容情報
「軍部にペンを折られた」は?だった。「報道報国」を掲げ、権力と一体化して部数拡大と特権獲得を図った新聞社の「不都合な真実」。
内容説明
第二次大戦後、新聞社はこぞって言い始めた。「軍部の弾圧で筆を曲げざるを得なかった」と―。しかし、それは真実か?新聞の団体は、当局に迎合するだけの記者クラブを作り、政府の統制組織に人を送り込んで、自由な報道を自ら制限した。「報道報国」の名の下、「思想戦戦士」を自称しつつ、利益を追求したメディアの空白の歴史を検証する。
目次
一万三四二八紙の新聞
変貌する報道メディア
国策通信社の誕生
実験場としての満州
新聞参戦
映画の統合
内閣情報局に埋め込まれた思惑
自主統制の対価
新聞新体制の副産物
統制の深化
一県一紙の完成
悪化する戦局の中で
巣鴨プリズン
著者等紹介
里見脩[サトミシュウ]
1948年、福島県生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。博士(社会情報学)。時事通信社記者、四天王寺大学教授、大妻女子大学教授などを経て、現在は大妻女子大学人間生活文化研究所特別研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
100
戦時下、メディアは、軍部による「言論統制」の被害者ではなく、むしろ、それに便乗し自らのビジネスの拡大に邁進した存在だった。朝毎読の販売競争、全国紙と地方紙との競合、通信社と新聞との関係などの企業意識が優先され、戦争が儲けの手段となる。その象徴的人物として、古野伊之助、正力松太郎、緒方竹虎らが権力闘争に明け暮れる姿が描かれている。戦時統制で生まれた特権(一県一紙、記者クラブなど)が、権力とメディアの癒着構造として今に続いていることが問題だ。敗戦と同時に報道メディア全てを廃社にしたドイツとの違いがここにある。2021/11/14
パトラッシュ
90
戦時中は軍の発表以外は書くことを許されず、多数あった地方紙は政府の強制で1県1紙に統合されたなど新聞を戦争の被害者とする従来の史観を転覆させられる。積極的に戦争を支持する新聞が「報道報国」の名で販路を拡張し、記者クラブ設立などで政府に迎合し自由を放棄した実態が生々しい。資本の小さな中小紙はむしろ統合に活路を見出し、当時得た特権を今も握り続けている。紙の新聞は毎年10万部以上減り続けており、そう遠くない将来に消滅するだろう。古野や正力や緒方が21世紀の業界を見れば、自分たちの活動の虚しさに愕然とするのでは。2021/12/16
onepei
4
1県1紙体制の構築など興味深かった2021/10/03
Jun Masuno
3
タイトルにひかれ読みました 戦争中、被害者としての立場をアピールする新聞社が、自ら率先して戦争に協力していた事実 オリンピックを強行することに協力する、今の姿とそのまま当てはまる 事実を拾い、たんたんと書かれているこの作品、思いの外面白かったです いずれにしろ、不都合な事実を隠すマスコミってと相変わらず思いました2021/10/24
馬咲
1
度々指摘される各新聞メディアの肝心な所で公権力におもねる体質が、戦時中メディア側からの積極的な参加もあり実現した統制体制の遺産であると分析した一冊。個人的にメディアは、公権力におもねらないだけでなく国民の「気持ち」に寄り添いすぎることにも慎重になるバランス感覚が必要な存在だと思うが、それを実現するにはメディア自身の自覚はもちろん、そこから情報を受け取り、今日では即発信者になることも可能になった読者側のジャーナリズム意識の高さも求められるか。2022/05/17