内容説明
旅仕事の父に伴われてやってきた少年と、ある町の少女との特別な絆。30年後に再会した二人が背負う、人生の苦さと思い出の甘やかさ(「イラクサ」)。孤独な未婚の家政婦が少女たちの偽のラブレターにひっかかるが、それが思わぬ顛末となる「恋占い」。そのほか、足かせとなる出自と縁を切ろうともがく少女、たった一度の息をのむような不倫の体験を宝のように抱えて生きる女性など、さまざまな人生を、長い年月を見通す卓抜したまなざしで捉えた九つの物語。長篇小説のようなずっしりした読後感を残す大人のための短篇集。
著者等紹介
マンロー,アリス[マンロー,アリス][Munro,Alice]
1931年、カナダ・オンタリオ州の田舎町に生まれる。書店経営を経て、68年、初の短篇集Dance of the Happy Shdesがカナダでもっとも権威ある「総督文学賞」を受賞。やがて国外でも注目を集め、ニューヨーカーに作品が掲載されるようになる。寡作ながら、三度の総督文学賞、W・H・スミス賞、ペン・マラマッド賞、全米批評家協会賞ほか多くの賞を受賞。チェーホフの正統な後継者、「短篇小説の女王」と賞され、2005年には、タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
183
たとえば、なんて美しいんだろうとうっとりするような言い回しを、翻訳した後の作品にそのまま残すことは可能なのだろうか。作品を評価する上でとても大切な文章表現を別の言語に移し替える翻訳という行為はきっとすごく難しいんだろうな。 つまり何が言いたいかって言うと、翻訳の表現が肌に合わずむっちゃ読みにくかったってことです。 アリス・マンロー初読み。表題作含む9編の短編集。装丁も大好きだし、登場人物の人生すべてを語っているような、濃密で重厚な作品たちにはとても好みな香りを感じるだけに他の作品に行こうか悩む。2019/02/28
KAZOO
168
初めての作家です。かなり評価がいいので読んでみました。9つの短編が収められていてどちらかというと親子関係や人間関係が中心の物語のような気がしました。カナダの作家ということで、私が好きになったアリステア・マクラウドと比較してしまうのですがこちらは自然がすごく出てくるのに反して人間関係中心の話で、ジュンパ・ラヒリを思い出しました。水準にはあるのでしょう。2016/04/05
遥かなる想い
156
カナダの作家マンローの短編集である。 日常の何気ない出来事を 丹念に描く。 過ぎ去った その時を さりげなく 語りながら、長い年月を語る …そんな作品が 多く感じるのは、著者の 嗜好なのだろうか? 時折 暴かれる 過去の秘密が 控えめで 時の流れに消えていく …やや 感情移入しにくい 展開が 少し残念だが、丁寧な 語らいの短編集だった。2019/09/11
優希
112
ずっと読みたかったアリス・マンロー。初めて読みました。ゆっくり丁寧に入れた珈琲のような苦みと芳醇な香りが漂う大人の短編集でした。日常の何気ない暮らしを書いていながらも豊かな感性を感じる物語ばかりです。特別な絆で結ばれた少年少女が30年後に再会することで人生の苦さと思い出の甘さを感じることに繋がる『イラクサ』、未婚の女性が悪戯のラブレターに翻弄される『恋占い』など素敵な短編たちであふれています。ちょっと古い感じが素敵でした。2015/11/05
(C17H26O4)
101
原文がどうかは分からないが、決して滑らかには読み進められない訳。でもこれが合っていると思う。誰のどんな人生だって軽くつるつるとしているはずはないのだから。時に躓き、立ち止まり、寄り道をし、振り返る。浮かれ、嫉妬し、耐え、密かにわめく。それら全部さらけ出したような物語に、ざらついた手触りとずっしりとした重さと、おかしさを感じる。渦中にあると物事の全体像が見えないように、主人公たちの人生は物語終盤にようやく見えてくる。そして彼らに不意に訪れたなんらかの瞬間に息をのむ。どの物語も結末を知った後にもう一度読んだ。2019/08/30