内容説明
「およそ文学における最高傑作の一つと言っても過言ではない」とボルヘスに激賞され、オースターが『幽霊たち』を書く際に依拠したとされるホーソーン著『ウェイクフィールド』。ストーリーも時代設定も同じながら、新たな光をあてラテンアメリカ、欧米諸国で絶賛されたベルティ著『ウェイクフィールドの妻』。不可解な心理と存在の不確かさに迫る文豪と鬼才のマスターピース二篇。
著者等紹介
ホーソーン,ナサニエル[ホーソーン,ナサニエル][Hawthorne,Nathaniel]
1804~1864。アメリカ・マサチューセッツ州生まれ。1850年に発表した『緋文字』によって名声を博し、世界的に認められた初のアメリカ人作家といわれる
ベルティ,エドゥアルド[ベルティ,エドゥアルド][Berti,Eduardo]
1964~。アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。ジャーナリスト、テレビ・ドキュメンタリー作家としても活躍。『ウェイクフィールドの妻』(1999年)はフランスのフェミナ賞候補になるなど、本国はもちろんのこと、アメリカ、ヨーロッパで高く評価された
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年、東京生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳家。東京大学文学部教授
青木健史[アオキケンシ]
1967年、山口県生まれ。東京外国語大学卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。日本大学経済学部非常勤講師。専攻はラテンアメリカ文学
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感想・レビュー
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キムチ
57
連続辛口評価に…N.ホーソン作の名著、柴田氏が自作の下本とした曰く付きの作品18c執筆後、他の作家に影響を与えた/百年後 アルゼンチンの作家が妻側の情況を執筆、賞賛された作品のペア。と前認識で読むが、前者〜事実をシンプルに淡々と叙述 簡潔明瞭18cの空気感そのもの。夫が突然家を出 誰にも知られず近所に20年以上住み、何事も無かったかの如く帰宅する不思議な設定。ウェイクフィールドは自分を消した後 妻等の動きに興を置く。だが、誰も騒がず時は流れる。 人の存在って?そんなものか?一方、残された妻視点で描かれた→2025/03/15
内島菫
28
ホーソーンの「ウェイクフィールド」はオースターの『幽霊たち』で出会い、ビラ=マタスの『バートルビーと仲間たち』やボルヘスのエッセイですれ違っていたので、読んでもいないのに読んだ気になっていて、結局出会いから20年(まさにウェイクフィールドが妻のもとを離れていた期間)経ってからちゃんと読む。「ウェイクフィールド」が、一瞬の、微かで、静かな、本来ならなくなってしまっていたはずのものを掬い上げた(そういう意味で「二度語られた」「焼きなおされた」と題に付された短編集におさめられていたのだろう)話であるならば、2018/02/08
NAO
25
ホーソーンの『ウェイクフィールド』は、家を出て妻から隠れるように暮らしていた男が、自分というものをだんだん失くしていってしまう話。誰にも会わずにずっとただ一人でいたらなんだか自分が誰なのかわからなくなってしまうという感覚は、すごく分かる。そう思った後でベルティの『ウェイクフィールドの妻』を読むと、がっくり。奇をてらっているのだろうが、これでは、せっかくの名作が台無しになっちゃうなあ。2015/08/11
三柴ゆよし
22
ボルヘスがどこかに書いていたと思うが、ホーソーンの小説家としての欠点はその寓意性にある。ホーソーンが物語る状況やイメージはきわめて異常且つ鮮烈なものだが、真摯なピューリタニズムから、最後の一説に余計な教訓をつけ加えずにはいられない。現代小説に慣れた読者にとって、ホーソーンのこの書き癖にはいささかの抹香臭さを感じるが、といって物語上の空白がいくらかでも埋め合わされるわけではない。エドゥアルド・ベルティ「ウェイクフィールドの妻」は、ウェイクフィールド失踪の謎めいた顛末を、その妻の視点から語り直した小説である。2020/01/29
ののまる
17
古典的名作と妻側から語り直した現代文学の共演。しかし…19世紀の設定とはいえ突然理由も言わず出奔し、しかも妻が苦しんでいる姿を家の近くで観察し、20年後にしれっと帰宅。今でいう男のミドルクライシスなんだろうけど現代なら(私なら)こんなナルシストの身勝手なクズ男は、数ヶ月でとっとと断捨離して、自分の道を進むな。自分の人生の時間がもったいない。でも出奔して孤独と暮らしてほとんど狂気になっていく人間の闇もわかるのが怖い。意外に思索的な妻は日記へ書きつける哲学的な言葉が二元的(いつも人間を二つの型に分ける)。2016/06/14
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