出版社内容情報
完訳を成し遂げた翻訳家の仕事と人生はこんなにも密接につながっていた。ソ連に11年抑留された父、女手一つで子供達を守り育てた母。自身の進学、結婚、子育て、介護、そして大切な人達との別れ――人生の経験すべてが、古典の一言一言に血を通わせていった。最初は苦手だったシェイクスピアのこと、蜷川幸雄らとの交流、一語へのこだわりを巡る役者との交感まですべてを明かす宝物のような一冊。
内容説明
まさか、全戯曲完訳の長い旅に出るなんて―。作品を「読む」と「訳す」は大違い。古の大劇作家の企みに果敢に挑む!
目次
第1章 父と母(引き揚げ後の暮らし;明治生まれの母・幸子 ほか)
第2章 学生時代(勉強か青春謳歌か;大学選択でまた悩む ほか)
第3章 仕事・家族(初めての翻訳;弟が設計した自宅 ほか)
第4章 劇評・翻訳(戯曲翻訳の世界へ;ドラマ仕掛けの空間 ほか)
第5章 シェイクスピアとの格闘(自分が新訳する意味は何か?;夜は明けるのか明けないのか ほか)
著者等紹介
草生亜紀子[クサオイアキコ]
国際基督教大学、米Wartburg大学卒業。産経新聞、The Japan Times記者、新潮社、株式会社ほぼ日を経て独立。現在、国際人道支援NGOで働きながら、フリーランスとして翻訳・原稿執筆を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
116
とてもいい本だ。シェイクスピア37作品全てを翻訳した松岡和子さん。生い立ちや家族、シェイクスピアから逃げ回った学生時代、そして編集者や蜷川幸雄先生らとの出会いを経て完全翻訳を完成する28年間などが、見事に描かれている。台詞の多層性などシェイクスピア劇の深さや、一つ一つの言葉を突き詰める翻訳作業の凄さもよく分かった。大学教授、翻訳・執筆、観劇、劇評など精力的な松岡さんの業績とお人柄にすっかり魅了されるが、この充実した読了感は、執筆者である草生亜紀子さんの絶妙の筆捌きの賜物でもある。素晴らしい評伝だと思う。2024/08/15
たまきら
40
お仕事の話というよりは、彼女の人生を追った内容の中にシェイクスピアが登場する…といった内容です。長くソ連に抑留された父のエピソードが、彼女が学生運動が盛んだった東大で運動に興味を持てなかった理由の一つであることに、「そりゃそうだよなあ」としみじみ思いました。シェイクスピアのエピソードではハムレットの有名な「耳に毒を流し込む」セリフがearsとなっていること、誰も明確な答えを出せなかったこと、後日答えが見つかったこと…が面白かった!うんうん、好みですこういう追及。2024/11/11
貧家ピー
9
今年読んだ本の中で題名No.1と言える作品。だが内容もとても面白かった。翻訳家 松岡和子がシェイクスピア新訳集を出版するまで半生を記した。ソ連に抑留された父の帰国までを描いた第1章が、ここだけで1冊の中身がある。大学 英文科の「シェイ研(シェイクスピア研究会)」から、東大 大学院で読みの深さにおののきシェイクスピアか「逃走」したが、縁があったのだろう。シェイクスピアが伝えようとした内容を日本語で伝えようと考えつくす姿勢がにじみ出ていた。2024/09/03
じじちょん
8
シェイクスピアの翻訳家・松岡和子の軌跡を追った本。松岡の両親の生い立ちから満州引き揚げ、父のシベリア抑留時代が前半を占めている。母の『愛して失った方が、愛さなかった人生よりも素晴らしい』という引用や「好きな人から好かれればそれでいい」という言葉が印象に残る。古典演劇の新訳は作品を書くと同じくらい大変な作業であることが良く伝わった。訳者の綿密な翻訳と言葉選びの感性によってシェイクスピア作品が作られるんだなぁ。2024/12/12
タンタン
7
面白い!波瀾万丈の人生。朝ドラになりそう。松岡訳のシェイクスピアをぜひ読みたい。2024/10/20
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