内容説明
山あいの静かな町、雪沼で、ボウリング場、フランス料理屋、レコード店、製函工場、書道教室などを営む人びと。日々の仕事と真摯に向きあい、暮らしを紡いでゆくさま、その人生の語られずにきた甘苦を、細密な筆づかいで綴る最新短篇集。川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」ほか、雪沼連作全七篇を収録。
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年、岐阜県多治見市生まれ。明治大学助教授。1999年『おぱらばん』(青土社)で三島由紀夫賞を、2001年『熊の敷石』(講談社)で芥川賞を、2003年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞を受賞
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感想・レビュー
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おしゃべりメガネ
229
初読みの作家さんです。雑誌『ダ・ヴィンチ』か何かで紹介されていて、読んだ作品です。とにかく作者さんの情景描写は絶品でした。ボリュームも少なく、読みやすさももちろん特筆ですが、読んでいて情景がすぐ目に浮かぶ作風は、まるで映画をみているかのような錯覚に陥ることを体験できます。それぞれが独立した話で成り立つ連作集なので、気軽に読むこともできながら、読後感はなんともいえないありがたいキモチにさせてくれます。とにかく作品からあふれんばかりに漂う「静寂」さは、他の作品では味わうことのできない「未体験ゾーン」です。2009/04/26
紅はこべ
124
地味な土地柄に堅実な生活を送っている地味な人達の生活。文章はきれい、端整。『モーヌの大将』って岩波文庫にある『グラン・モーヌ』のことか。それともぞれの話の繋がりは薄い。大事な人を亡くした人の話が多い。ボウリングとイラクサとランプと凧の話が好き。ミステリ読みの弊害で、つい物語にオチを求めちゃうんだけど、そんなのなくても小説だ。2016/10/24
K(日和)
66
受験勉強の時に出会った「送り火」に惹かれて読んだ1度目。朝井リョウの対談に誘われるようにして手に取った2度目。朝井リョウは「スタンス・ドット」に惹かれて本書に引き寄せられ、早稲田で教鞭をとる堀江敏幸のゼミで学んだようです。何度読んでも、そこに広がる柔らかな空間と時間の流れが眼前に広がる。ぼくの中では純文学といったら堀江さん、というイメージ。個人的には。またいつか、どこかで、何かの縁で、出会いめぐり合うことになる気がしてなりません。2017/04/12
J D
60
初読み作家さんです。収録されているどの作品も静かに心に染み入るものでした。誤解を恐れずに言えば、中学や高校の教科書に乗りそうなトーンと熱量を帯びた作品群でした。「送り火」、「ピラニア」に惹かれました。他の作品も読んでみたい。2023/02/11
クリママ
57
雪沼という北方の少し標高の高い街とその周辺に住む人たちの日々を描いた7編の短編。そばに尾名川流れているけれど実在の場所とは違うのだろう。登場人物には○○さんと呼称がつけられ、その丁寧さ、穏やかさ、そして淡々とした文章に、時の移ろいの悲哀とそれに対する優しさが感じられる。それぞれの職業についても詳しく書かれ、そのことに感心するとともに、「レンガを積む」のレコード店の場面ではかつてそのような店に通っていたことを思い出し、無性にレコードが聴きたくなった。それぞれの結末にも余韻があり、深い情感を感じる作品だった。2021/11/02