出版社内容情報
美しき都ウィーンはヒトラーのグロテスクな怨念をどのように醸成していったのか。ウィーンと関係の深い哲学者が「怪物」の青年期を様々な視角から追う。
内容説明
各界の天才たちが一堂に会していた頃のウィーンで、天才とはほど遠い落ちこぼれだったヒトラーは、「ユダヤ人絶滅」を「善」とする自らの主観の骨格を固めていった。彼の過剰な健康志向や、潔癖症的傾向も、その根は、浮浪者収容所に潜伏するほどの“負け犬”だったウィーン時代にある。だが現在、ウィーンからヒトラーの行跡はきれいに消されてしまっている。それをあぶり出すべく、ウィーンと関わりの深い哲学者が、後に不世出の「怪物」と化すことにになる男の青春の日々を、様々な視角から追う。
目次
第1章 ウィーン西駅
第2章 シュトゥンペル通り三十一番地
第3章 造形美術アカデミー
第4章 シェーンブルン宮殿
第5章 国立歌劇場
第6章 ウィーン大学
第7章 国会議事堂
第8章 浮浪者収容所
第9章 独身者施設
第10章 リンツ
第11章 ブラウナウ
第12章 英雄広場
著者等紹介
中島義道[ナカジマヨシミチ]
1946年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了。哲学博士。電気通信大学人間コミュニケーション学科教授の職を2009年3月に退官。専攻は時間論、自我論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ようこ
8
ヒトラーが不遇の時代を過ごしたウィーンや生まれた家庭や育ちについて詳しく書かれている。内向的で変わったところはあるが、どこにでもいるような一人の青年がどのようにして天才的演説で民衆を虜にしたヒトラーになったのかその過程は語られていないが、潔癖な少年が優位に立っていたはずの友人にたいして劣等感を持ち、ウソを重ねていた心情を思うと読んでいて苦しくなる。2012/02/28
rubix56
6
☆☆☆☆ 2w ヒトラー青年期に数年間過したウイーンについて、闘う哲学者が記した本である。 気になる箇所を抜粋してみる。 《秀才とは、教師の思惑も、教科書の思惑も読め、その背景価値観を読め、そうして、自己をそれに向かって調教することのできる者のころである》 《彼にとって、「そうでありたい」と願ったことが、その時の真実である。それは、自分でも本当にそうであったと思い込めるほど自信に満ちた嘘なのであるから、他人はあっさり騙されてしまう。》 2015/03/04
テツ
5
独裁者としてのヒトラー、ジェノサイドを行ったヒトラーではなくウィーン時代の平々凡々な男であった彼の内面を追う一冊。画家を志すありふれた夢見る青年だったヒトラー。確かに青年期にいくつもの挫折を経験してはいるけれど、一般的なレベルのそれを超えるような物では決してなく、どうしてもその後の独裁と大殺戮に繋がるとは思えなかった。不自然に背負わされた大きな力とか時代の空気とか、どうしようもない物で人間は簡単におかしくなるんだよな多分。ヒトラーと同じ立場になった場合、個人が個人の意思でそれに抗えるのかと考えてしまった。2013/09/01
ぷー
4
独裁者、史上最凶の大量殺戮者。世界史におけるヒトラーの評価はすでに決まっている。しかし本書はそういった色眼鏡をはずして、ヒトラーという「政治家」ではなく、「個人」の内面に迫っていく。彼が16歳で画家を志して単身ウィーンへ渡り、造形美術アカデミー受験の2度の不合格や、路上生活、放浪者施設や独身者施設をわたりあるいた軌跡を追いながら、ヒトラーの内面を著者が少ない資料から鋭く”推察”している。こうしてみるとつくづく、ヒトラーという男の凡夫ぶりがみえてくる。なぜこの男が欧州を制覇しえたのか。複雑な読後感であった。2012/09/08
蝉海
3
ヒトラーのウィーン時代の足取りを追うと共に、その人物像を多角的な観点から考察していく。口語的で読みやすい文章がいい。歴史的に悪人とされている偉人を扱う伝記でありがちな、あげつらいもほとんどなく、「ヒトラーはこういう人間なのだ」という独断を徹底的に排除するスタイルが好感触だった。ヒトラーはたしかに虚言癖のある人間であったが、それだけで底の浅い人間と断ずることは乱暴である。嘘に堪えながら、親友クビツェクとの関係を続けた青年ヒトラーの言動には、どこか目頭を熱くさせるものがあった。2014/08/03
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