内容説明
この川は、人の卑しさも気高さも、すべて見てきた―。時は安永の世、舞台は高瀬川のほとりの旅籠「柏屋」。父を知らない娘「お鶴」。四条橋の捨て子「平太」。庚申堂に住む謎の男「宗因」。清らかな高瀬川の流れにたゆたう人情時代小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
10
街中を流れる高瀬川。そのほとりにある「柏屋」を舞台に心に傷を負った登場人物達の過去がだんだんと明らかになって行く。川の流れと時の移ろい、水面に人足達のかけ声とはんなりした京ことば、江戸市井ものとはひと味違う江戸情緒を描き出す。旅籠柏屋は角倉会所と縁が深い。柏屋の主惣左衛門と女将伊勢は同僚志津の娘お鶴を娘のように可愛がっていた。お鶴が高瀬川で魚を捕っていた平太をかばう。平太は菱屋の遊女小梅の病気が治るようにと庚申堂に住む宗因に鯉の生血を抜いてもらっていた。「中秋の月」2002/03/14