出版社内容情報
数百年先に帰ってくるかもしれない。懐かしい、この浜辺に――。なんとかウミガメの卵を孵化させ、自力で育てようとする徳島の中学生の女の子。老いた父親のために隕石を拾った場所を偽る北海道の身重の女性。山口の島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男――。人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。きらめく全五篇。
内容説明
今日も日本のどこかで大切な何かを受け継ぐ人がいる。科学だけが気づかせてくれる明日、5つの物語。第172回直木賞受賞作。
著者等紹介
伊与原新[イヨハラシン]
1972年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。2019年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
359
第172回直木賞候補作・受賞作第五弾(5/5)、コンプリートです。伊与原 新 、4作目です。良作揃いの短編集、オススメは、『夢化けの島』&表題作『藍を継ぐ海』です。悪くはないですが、私が選考委員だったら、直木賞には推しません。 https://www.shinchosha.co.jp/book/336214/2025/01/25
パトラッシュ
351
『オオルリ流星群』では人生を諦めていた者たちの復活劇を描いたが、今作は行き詰まったり鬱屈を抱える男女が新しい道を見い出す5つの瞬間を捉える。いずれも人の少ない田舎を舞台に、粘土や狼犬探し、原爆遺留品に鉄隕石の行方 ウミガメの卵泥棒と些細なものをきっかけに人生の転回点を掴んでいく。最初は興味もなかったのが思いがけない由来を知り、少しずつのめり込んでいくプロセスが共通している。著者が『宙わたる教室』で会得した作劇法による青春小説は短編でも味わい深いが、特に表題作と「祈りの破片」は長編の序章を予感させる出来だ。2024/10/16
名古屋ケムンパス
299
また著者からとても素晴らしい作品がこの手に届けられたと実感できます。被ばく直後の長崎の爆心地付近で、原爆症による死を覚悟の上、一人っきりでガレキを収集した長崎師範学校の理科教師がいました。彼の収集試料の中にあった浦上天主堂の神父の悲しみの記憶が、読者をも慟哭させてしまいます。最終編の表題作では、藍色の黒潮に乗って長旅をする子ガメを、ルール違反を知りながら助け育てるウミガメ監視員らの描写が、この作品全体が「愛を継ぐ海」であると語りかけているかのようです。2024/11/16
hiace9000
293
地球、宇宙—、幾重にも織りなされる壮大な歴史のなかで、人の一生とは一弾指にすら満たぬ一瞬の煌めき。しかし人は確かにそこに生き、思いを行動や形として残そうとする。伊与原さんならではの理系人間ドラマ、今作もじっくり堪能。美しい日本語と自然描写は、心象風景とグラデーションを成すように混ざり、読み手の心にゆるりと溶け込んで満たしていく。いずれも巧みの筆で綴る五短編。どれがというより、どれもが秀逸。各々の作品、佳境を示すキーワードとなる”言葉”が帯に。あとの2編にも見つかる、素敵な”それ”とも是非出会ってほしい。2024/10/21
tetsubun1000mg
286
伊予原新氏の本も5冊目となり、傾向も分かってきたと思っていたが、この短編集はいささか趣向の違った一冊。 焼き物と陶土、狼犬、長崎原爆、隕石、海がめの産卵など五つのテーマで書かれているが、内容は登場人物の心情がメインになって描かれている。 本作では表題作の「藍を継ぐ海」「狼犬ダイアリー」に引き込まれました。 しかし、よく思い出してみれば伊予原新氏の作品は、科学的要素を入れながら登場人物の心情を描写してたのは長編も同じでしたね。 第172回直木賞にノミネートされたがどうかな ⇒ 受賞おめでとうございます。2024/12/11