出版社内容情報
貞淑。なのに最も淫らな恋の輪舞。二十歳で夭折した神童ラディゲの代表作。
夫以外の男性との恋愛など考えたこともなかった貞淑な女性、ドルジェル伯爵夫人マオは、夫とサーカス見物に出かけたとき知りあった青年フランソワに恋心をいだくようになる。燃え上がる情念を自制しようと苦悩するマオと青年の一途な慕情のからみあいを、20歳の天才ラディゲが、あたかも盤上のチェス駒を動かすかのような端麗なる筆致で描きあげた“最も淫らな最も貞潔な恋愛小説”。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
107
三島由紀夫が影響を受けた文学作品とのこと。淫らで貞節な恋愛小説として読むと非常に面白いです。未婚のうちは純潔を守り、結婚後は多少の浮気も許される風潮があると言われた時代だからでしょうか。夫に貞節を誓っていたはずの妻が舞踏会をきっかけに他の男性に恋心を抱くことで揺れ動く情念は、ある意味で一途な慕情にすら思えました。どことなくスキャンダラスな香りがするのは時代ゆえでしょうか。舞踏会での華やかな場面がクライマックスであるのも納得です。2017/05/26
マエダ
81
解説に”読後印象を率直にいうと、日常意識の達しない深いところにしかれた将棋盤上で、象牙彫りの駒がふれあう音を聞くような感じである”と書かれていたがどんなに考えてもでてこない表現で度肝を抜かれた。2017/07/20
SIGERU
44
「ドルジェル伯の舞踏会のような心理小説は時代おくれなのだろうか?」。そう戯れたくなるのは、この作品が、17世紀心理小説の古典『クレーヴの奥方』の設定を借りて、20世紀に再生させているからだろう。ドルジェル伯夫人マオとフランソワ青年との綾なす恋に、夫であるドルジェル伯の心理が絡む布置は、『クレーヴ』そのものだ。だが、古典の向こうを張っても、『ドルジェル伯』の独創性は揺るがない。二十歳の駿才ラディゲによる恋愛心理の分析は精緻をきわめており、いわば言語による人工美の世界を造り上げている。そこが新しい。2022/07/02
みっぴー
42
ただひたすら、人間の心理状態を追っていく話。会話が少なく、読む人によっては非常に退屈なものとなるでしょう。しかし、この本を手にした人は、むしろ望むところ、といった覚悟をお持ちかと存じます。ラディゲという作家を理解して挑むなら、大丈夫。ドルジェル伯に嫁いだマオが、フランソワという青年と夫との間でもがくだけの話。本当にこれだけ。確実に面白くはない。しかし、多くの作家がこれを評価しているのは、書こうとしても書けないからなのではないか?つまり、作家からみて凄い作家。きっと心理描写って難しいんですね。2018/03/18
mt
38
「肉体の悪魔」では「僕」が語り手となっていたが、「ドルジェル伯の舞踏会」は登場人物が各々、心のうちを表す。そして、ラディゲの鋭利なペンは「肉体の悪魔」に比較すると少し丸みを帯びたように思える。場面の情景描写は極端に少なく、心理描写と会話のみで小説を完成させてしまうのはラディゲの自信の表れか。平坦な進み方で終始するかと思えばアクセントを入れたり、影のような人物に突如、重要な役割を持たせたり、練り上げられた構成力に感心した。終盤の二人の恋愛心理の描写と意外な舞台装置は圧巻で完全に釘付けにされた。2015/11/09