出版社内容情報
恋と名声にあこがれる女優志望の娘ニーナに、芸術の革新を夢見る若手劇作家と、中年の流行作家を配し、純粋なものが世の凡俗なものの前に滅んでゆく姿を描いた『かもめ』。失意と絶望に陥りながら、自殺もならず、悲劇は死ぬことにではなく、生きることにあるという作者独自のテーマを示す『ワーニャ伯父さん』。チェーホフ晩年の二大名作を、故神西清の名訳で収録する。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
232
帝政末期に書かれた2つの戯曲。描かれているのは、その時代にロシアに生きた人々。両篇共に終始一貫して暗く陰鬱なムードに覆われている。そして、この2作で語られているテーマもいわば同じだ。より分りやすいのは「ワーニャ伯父さん」の方だろう。彼を含めて登場人物たちの誰の恋も報われることはないし、生きていることの意味を積極的に見出すこともできない。ワーニャが語る「新規蒔き直し」が叶わないことは彼自身も観客も知っている。また、「かもめ」に象徴される圧倒的な孤独は、不条理であり、ドストエフスキーとの相通性をも感じさせる。2014/01/30
のっち♬
130
四大劇より二作。パーソナル要素の強い『かもめ』の現世を憂う象徴主義劇作家との対比や劇中劇の引用暗示は人生観と芸術観が不可分なことを物語っており、劇的なアクションに訴える伝統から脱却した間接的な表現は余韻の力感と哀切に深みを齎している。執筆後はネガティブに苛まれる告白からは、初演失敗が作者をいかに悲嘆させ健康悪化を招いたかが伺える。厳しい自己批判の元に旧作を改作した『ワーニャ伯父さん』は社会問題を絡ませてより広義的な次元で絶望からの救済に忍耐や仕事が鍵となる見解が明示される。美しく簡潔な文体は神西の真骨頂。2023/07/13
aika
60
短い戯曲の中に、人生の究極をこれほど感じさせてくれるチェーホフって、すごいと思いました。「かもめ」では、女優志望のニーナが流行作家に恋い焦がれるも、その身に降りかかる悲劇を忍耐で乗り越え、人生に向き合う強さと、彼女に思いを寄せる青年作家トレプーレフの悲恋と順調な人生への絶望とのコントラストに、衝撃を受けました。「ワーニャ伯父さん」では、領地の経営にひたすら勤しむも、その努力や恋すらも報われず人生を嘆くワーニャに、純粋で若い姪のソーニャが力強く語りかけたラストシーンが、魂を突き動かす言葉が、忘れられません。2018/03/31
ω
58
ドライブマイカー見た後、長い間積んでいたこの本を読むのは今だと読み始めたω笑 訳で「なんぼなんでも」って何度か出てくるけど、元のニュアンスどんなだったのよ笑 でも、「キーエフの商人」とかいうワードを読むだけでもう、感想もへったくれもあるかと思ってしまうんですよ。2022/04/16
こばまり
51
時代や民族は異なれど、嗚呼ここに人間がいるナァと感嘆。食わず嫌いであった戯曲を克服できたかもしれません。ストーリーを追い登場人物の心情に寄り添いながらも、ニーナはもう少し中央に、トレープレフそこはもっとしぼり出すようになど、舞台監督の気持ちになってしまいました。2015/06/24
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- 和書
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