内容説明
十八世紀以降の文学と哲学はルソーの影響を無視しては考えられない。しかし彼の晩年はまったく孤独であった。人生の長い路のはずれに来て、この孤独な散歩者は立ちどまる。彼はうしろを振返り、また目前にせまる暗闇のほうに眼をやる。そして左右にひらけている美しい夕暮れの景色に眺めいる。―自由な想念の世界で、自らの生涯を省みながら、断片的につづった十の哲学的な夢想。
著者等紹介
ルソー[ルソー][Rousseau,Jean‐Jacques]
1712‐1778。思想家、作家。時計職人の子としてジュネーブに生れるが、誕生後、すぐ母と死別、十五歳で家出し放浪生活を送った。これらの体験は、彼の思想形成に大きな影響を及ぼした。1742年パリで文筆生活に入り、啓蒙思想家と親しくなった。’55年『人間不平等起源論』で独自の社会観をうち立て、その後、『社会契約論』『エミール』を出版。“自然に帰れ”をモットーに主権在民を唱えた
青柳瑞穂[アオヤギミズホ]
1899‐1971。山梨県生れ。慶応義塾大学仏文科卒。堀口大學に師事。詩作の一方、ルソー『孤独な散歩者の夢想』等の翻訳、『ささやかな日本発掘』(読売文学賞)等の評論の分野で幅広く活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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jam
68
峻嶮な頂を照らす月のようだった。18世紀の思想家ジャン・ジャック・ルソーの「地上でただのひとり」という書き出しからなる本書は、ひとりの思想家最期の思索散歩である。著作が禁書になり、仏を追われ長い争闘の後に書かれた本書は、痛烈な憤りが顕わになる一方、絶望の向こうにある諦観が冷徹な文章で綴られる。自然の懐に抱かれ自我深くに降り、相反するものを収斂しながら到達した、遥かな高みで観た風景の断片。子を捨て、世論を敵に回しても守らねばならなかった尊厳。断片のなかに在る静かな幸福が、終の言祝ぎにふさわしい一冊だった。2016/05/03
イプシロン
43
これまで人生を変える読書体験は何度かしてきた。『アルジャーノンに花束を』がそうだったし、『シッダールタ』もまたそうだった。何より大きなショックはカント哲学を知ったこと。だが、それに勝るとも劣らない読書体験――激震――を味わえた。ルソーってこんな凄い思想家だったのか……。それに尽きる。自分自身に生きる。いまここを生きる。真理にのっとって生きる。自由に生きる。孤独の意味。それまで思索し確信へと近づけていたものに、こうまで別の角度から光を与えてくれた本はなかった。老害の戯言などという偏見を捨てて頁を捲るべし。2015/10/16
cockroach's garten
28
ルソー晩年の作品。ルソーの人間関係における倦怠感が伺える。ルソーの時代にも後世にも多大な影響を与えた著述を人生最大の失敗だと嘆いている。それは有名になるが故の悲哀に満ちた人々からの謂れもない誹謗の矢が彼に向けて放たれる。ペシミズムに満ちた彼を憐憫に思えるのは、人間の本性は嫉妬深いのだというのか。ルソーはあまりにも純粋で、多くを愛しすぎた。隠れた棘に刺されるのを露知らない頃から、刺されたことによって彼の心は疑心暗鬼になり、荒んでしまったように見える。悲しいことに、本国フランスでは本書は人気がない。2017/07/27
SIGERU
27
『告白』『エミール』などで知られる、18世紀フランスの思想家・著述家ジャン・ジャック・ルソー最晩年の随想録。劈頭の「第一の散歩」から、世間の無理解に対する愚痴が多く、『告白』で見せた溌剌には程遠い。さすがのルソーも老いたかと即断しかけたが、大型犬にじゃれつかれて転倒し、顎を砕いてしまう体験を面白可笑しく語った「第二の散歩」から、俄然、文章が躍動し始めた。やはり、実体験に基いた省察にこそ、ルソーの筆力が遺憾なく発揮され、気韻生動の趣がある。2021/04/16
柳田
10
意外と読みにくかった。しかし、ルソーという人の魅力がストレートに(?)出ていて、惹き込まれる。まだ読んでいないが、『告白』はたぶん、小説的に書かれているのだし、あまり回顧的には書かれていないと思う。対してこれは、もう人生を一通り終え、達観した地点から、自分の人生に起こったものごととか自分の性質とか、社会のしくみとかに対して断定的に論評を加えていく。まあ、曰く『告白』の続編らしい。モンテーニュの『エセー』とはちがってこれは自分のためにしか書かれていない、と書いてあるが、どういう読者を想定して書いたのだろう。2018/03/03