内容説明
小森谷芭子29歳、江口綾香41歳。ふたりにはそれぞれ暗い過去があった。絶対に人に知られてはならない過去。ふたりは下町の谷中で新しい人生を歩み始めた。息詰まる緊張の日々の中、仕事を覚え、人情に触れ、少しずつ喜びや笑いが出はじめた頃―。綾香が魚屋さんに恋してしまった!心理描写・人物造形の達人が女の友情に斬り込んだ大注目の新シリーズ。ズッコケ新米巡査のアイツも登場。
著者等紹介
乃南アサ[ノナミアサ]
1960(昭和35)年、東京生れ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。’88年『幸福な朝食』が日本推理サスペンス大賞優秀作になる。’96(平成8)年『凍える牙』で直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
572
タイトルの意味するところは、開始後しばらくすると明らかになる。29歳の芭子と41歳の綾香ーまさに絶妙のコンビである。なにしろ二人は「あそこ」で数年間寝食を共にした仲なのだから。「やねせん」という物語の舞台の選定もうまい。連作短篇スタイルで語っていくのも成功しているだろう。家族や世間とは断絶した彼らには未来もけっして明るくない。そうした中での日々の彼らの健気な姿を、私たち読者も応援したくなる。乃南アサさんの健筆が冴える。そんな小説である。2021/06/22
pino
232
主役は、前持ちの女、芭子と綾香。同じ釜の飯を食べた二人は、出所後も友情を温めている。舞台は下町。脇を固めるのは、ご近所の頑固爺さん夫婦、好青年?の魚屋さん、ウザイ警察官など。個性的な彼らと、彼女たちとの絡みが絶妙で、重くならず楽しめた。芭子は、お嬢様系で、ビクビクしているし、綾香は、お人好しで惚れっぽい。対照的な二人の心境も細やかに描写される。モンスターでもワルでもない普通の人間が一線を超え罪を犯す。芭子が自分の脆さを反省する場面は胸が痛む。二人を応援したくなるのは、作者の人と罪に対する冷静な視点からか。2013/03/06
ykmmr (^_^)
217
この方も存知なかった作家さん。この内容は中々ないと思い、借りて来た。下町を舞台に、「刑務所出」という経緯を持った2人の女性が主人公。ボケ&つっこみならぬ、陰暗のコンビのような2人の、自分たちにしかわからない生活・友人関係を描いている。下町もまた、素朴で明るい人が多いだろうが、逆を言えば、噂やネタもすぐに広がってしまう。人の態度も様々。2人はそんな中で、自分たちの在り方を模索し、お互いに考察している。2022/01/15
おしゃべりメガネ
205
マエ持ち二人組シリーズの一作目で、実写化もされており、イメージしやすく読了でした。乃南さんらしく女性の心理を巧みに綴るしっとりとしたお話でした。それぞれに前科がある29歳の「芭子(はこ)」と41歳の「綾香」は下町の谷中で、静かながら自分なりに再生を目指して暮らしています。終始、自分の過去の過ちを気にしながら生きている「芭子」とは対称的に常にポジティブになんとかなるさな「綾香」のギャップが印象的でした。もう少しコメディテイストなのかと思っていたら、結構思いの外シリアスで、色々と考えさせられる深い作品でした。2020/01/24
yoshida
181
それぞれの事情で前科を持ち、ひそやかに懸命に生きる芭子と綾香の日常を描く短編が4編収録。何だろう、その一線を踏み越えるという事は。綾香は結婚以来の鬱積と何より子供を守るため。芭子は両親から褒められた記憶がない、誰かに自分をしっかり見て欲しかったのか。私も人に褒められた記憶が薄く、芭子の心情が何となく分かった。家族と戸籍からも絶縁される芭子。弟からの手紙。どん底まで落ち込んだ芭子。修行先のパン屋で気丈に明るく働く綾香を見て救われる芭子。解説、人生に躓く事は世の常。そんな中、希望をみつけられるか。名作です。2014/09/28